電気のない日。風鈴
風鈴の音がこんなに大きく聞こえてきたのはいつぶりだったろうか。
それを聴きながら、何を考えるわけでもなく
ただただ本のページをめくるなんて1日を過ごしたのはいつぶりだったろうか。
私は小学生の夏休みを思い出す。
家には祖父母と私だけ。
小さい頃の私の日常はほとんどこの3人で構成されていた。
「畳の部屋」と当時読んでいた
だだっ広い和室で、畳の上に寝そべる。
縁側から刺す日が障子を介して
ちょうどいい明るさで差し込んでいた。
寝そべりながら本を読む。
当時、小学生向けに「ブックトリップ」という名の催しがあり
指定図書を読んで内容に関する問題を司書さんから出され
全て正解できたらスタンプを押してもらう。スタンプを全部集めたら
名前が掲示され、商品がもらえるといったものだ。
幼い私はこのブックトリップを同級生と比にならない熱量とスピードで
取り組む子だった。
なんなら夏休みに入ろうもんなら
そんなものさっさと終わらせて、大好きなシャーロック・ホームズや
ティーンパワーによろしくといったミステリー小説に読みふけっていた。
時々おじいちゃんとおやつの時間。
和菓子や近くのセブンイレブンで買ってきてくれたサクレを食べる。
時々庭に出る。おばあちゃんが畑を世話して、庭を手入れいている。
猫と遊ぶ。
犬を遠巻きに見て名前を呼ぶ。
畳の上に戻りまた本を開く。
おじいちゃんとおばあちゃんの出す物音と
色々な種類の蝉の声。鳥の声。
風鈴の音。
これが私の夏だった。
停電のおかげで灼熱の中で体力をセーブしなくてはならず
電車が復旧しようと祖父母を置いて東京に戻るわけにもいかず
私はひとまず身体を冷やすことに収集した。
浴槽に水を張り半ば強制的に身体を冷やすことにした。
1時間くら使っていた気がする。
だいぶ体が冷えたのでリビングに戻ると、1時間前の汗が吹き出すような暑さはそこにはなく
風鈴が一定間隔でなるくらいの気持ちのいい風が吹いていた。
この時、今年で初めて「あ、夏だ。」と思った気がする。
それはただの季節の夏を思うという感覚ではなく
私にとっての、とてもプライベートな感情を久しぶりに感じた感覚だった。
あの頃は携帯なんか持っていなかったし
バイトの心配もする必要がなかったし
あれやこれやと悩んで頭の中が騒がしいこともあまりなかった。
猫と祖父母のそばで本を読んでいれば
それが一番のリラックスする方法だった。
電気のない1日で思った。
ずいぶん長いこと、心からリラックスしてなかったんだな。
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