夏灯籠/HACHI 夜の海に漂う光をじっと眺める、美しさへの信念に思いを馳せる。
一曲を通して描かれる情景の美しさがあり、そのために不要なものを全て切り捨て、研ぎ上げた美しさがあり。
抑制的な美しさというか、禅的な静けさの感覚というか。
全ての音が作品のコンセプトや世界観に対して徹底されていて、もうそれだけで圧倒される凄みがあります。
まずもって歌が本当にすごくて。
静かに淡々と呟くように始まり、サビで力強く大きくうねり、また凪いで……という強弱の流れだけでも美味しいのに、2サビではスケールの大きい多重コーラスまで。
2サビの高いコーラスの消え際から低い囁きが交差する瞬間とか、大サビの最後で強く張り上げてからウィスパーで〆るところとか、美しすぎて溜息が出ます。
一曲の中でこれだけ幅広い表現をしておきながら、そのどれも魅力的なシンガー、好きになるしかないのでは?
そしてその中でも勢いやテンションに任せて歌うようなところが一切なく。
丁寧に丁寧に、静かに織り上げていくような表現というか。
こんだけ上手いのに一切ひけらかさず、曲想に対して最高の表現を貫いているのがもうカッコ良くて。
もともと素の声の魅力や表現力もある方だなぁと思っていても、作品ごとにその幅や強度が更新されていくので本当にすごいです。
そして歌も凄いんですけど、凄いのは歌だけじゃないのがこの曲の凄いところ。
鳴っている音の全てが的確というか、音色にしてもタイミングにしても繊細に組み上げられていて。
音数の絞り具合やダイナミックレンジを目一杯使った仕上がりも作り手の強い意思を感じるような。
強弱だけでなく、各サビ前など要所要所のひと捻りも気持ちいいポイント満載でして。
例えば2サビ後は低域を鳴らさず、大サビ前にドンと響かせて視界を広げてくるようなところも見事すぎます。
歌詞についても、音としての響きや言葉から連想されるイメージまで徹底して美しい。
濁りやブレがまるでなく、非常に精度の高い言葉選びで一曲貫かれています。
作品の質と完成度を何よりも優先して作られていることがありとあらゆる面から認識できて、感服……! みたいな感じで。
こんな美しい作品を作り上げた人たちがいるんだなぁと溜息を吐いて、じっと目を閉じるのです。
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