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「高専」を皆さんはご存じですか?

全ては高専の知名度が低いのが悪い。

 4月になろうかなるまいかという頃、「高専」というワードが人知れずTwitterで炎上していたことを皆さんはご存じでしょうか?
 私はいち高専出身者として、心中穏やかでなく騒動を見ていたのですが、事態から一か月、ふわっとした概要と一般には知られていない高専生の生態について触れてみようと思います。

ことの始まりはとある高専生(らしき人)のツイートから。

 ツイートを要約すると、以下の通り
①呪術廻戦の二次創作をされる方へのお願いである。
②現在(ツイート投稿時)、呪術廻戦の検索除けタグ(センシティブタグ)として「高専」が使用されている。
③高専は実在する機関名であり、高専生はTwitterを使って交流を図っている。
④Twitter上で「高専」と検索をかけると、エロ・BL等の表現を含むツイートが大量に表示されるので、「高専」のタグを使用してエロ・BL等の投稿をやめてほしい。

堅苦しいので翻訳すると、

「高専」というタグを使って身内とキャッキャしていた所、突如センシティブ表現を携えた大勢の方々がワラワラとやって来て、身内達とキャッキャ出来なくなったので、「高専」タグ使うのやめてくれません?

ではまずは用語の説明から。

高専:
5年制の主に工業系の専門学校、の公式の略称。
正式名称は工業高等専門学校。船舶に関する学科を持つ学校は商船高等専門学校と呼ぶ。商船は非公式には「商船高専」と呼ばれたりする。卒業すると短大卒扱い。

呪術廻戦:
現在週刊少年ジャンプで連載している漫画。作中に「呪術高専」が存在する。こちらの高専は4年制らしい。今回問題となったのは呪術廻戦のエロ・腐向け二次創作の検索ワード=検索除けタグ「高専」

検索除けタグ:
古のネットより存在するゾーニング用の検索ワードのこと。二次創作を行う方々のとめどない愛とパッションから生まれた作品の数々を、公式様の目に留まらないネットの片隅で覗き見るための道標。
最近流行りのVチューバー界隈ではセンシティブタグなどと呼ばれることも。
今回の場合、エロ・BL等と一般の二次創作を分けるために使われていたようだ。

どうしてこんなことに?

最も明快な答えとしては、「二次創作をされる方々がセンシティブめな作品を扱うときの検索除けタグ設定をミスった」といったところでしょうか?

そもそも検索除けタグはゾーニングのために設定するものなので、現在使われていない用語にすべきです。ですから公的な教育機関名を使うべきではないし、下調べを怠ったという点では、オタクとしての危機管理がなってなかったといわざるを得ないわけです。
オタク文化に詳しくない方向けに簡潔に申し上げると、ビデオ屋の18禁暖簾がシースルーになってたって感じです。

どうして高専側から強い反発があったのか?

まぁ自分達のナワバリを荒らされたという感情面での反発もあったと思います。

でもそれだけじゃなかったりします。

高専をよく知らない方からすれば、
「どうしてここまで反発するの? ”高校”などと同じ一般名詞ではないか」
と思うかも知れません。でも高専生からすると「高専」のタグが使えないの結構問題があるんです。

 そもそも高専は全国で57校しかない珍しい学校です。ですので通学不可圏からも人が来ます。そんな通学が難しい彼らは寮に入るわけですが、ここで地元の友達とはサヨナラです。
 さらに工学を学ぶという点から低学年からカリキュラムが高校と異なります。ここでも、普通科に進学した友達と話が合わなくなります。
 そして行き着く先がSNSです。高専での些細な出来ことを分かってくれるのは同じ高専生だけ。そうして遥か遠方の他高専とのつながりを求めて、Twitterで「高専」と検索する...といった話が有ったり無かったりする訳です。

悪いニュースはTwitterが最速

 また、全国の高専で起こった事件などを知るのもTwitterでした。私が高専に在学中、某高専(自分の所属しているとこではない)の寮で食中毒が発生しました。この事件、ニュースなどよりも圧倒的に早くTwitterで情報が回ってきましたし、「高専」タグで検索すれば詳細な情報も手に入りました。私も寮に入っていましたから他人事とは思えなかった事件でもあります。

大抵の場合、悪いニュースはTwitterが一番早かったですし、一番詳しかったように思います。(それがリテラシー的に良いかどうかは置いておきましょう)

未知の土地「高専」に住まうものの生態

 上でも少し触れましたが、高専という場所はそれはそれは一般から隔絶した場所と言わざるをえません。工業にかかわる人以外には知名度も低いですし、いまだに、「高専って6年行くとこでしょ」って言われます。
 全ては高専の広報がしっかりしていないのが原因だ!と言いたいところですが、文句ばっかり言っても仕方ないので、ここからはTwitterのことは置いておいて、高専とそこに住まう高専生の生態について触れてみたいと思います。

コンテストに参加する者たち

高専の目玉といえばなんでしょうか?
NHK高専ロボコンは一般にも有名かもしれません。高専ロボコンはもう30年以上続く歴史のあるロボットコンテストですし、「ロボコンをやるために高専に入りました」という人を何人も見たことがあります。
 かくいう私も高専を知ったキッカケは高専ロボコンです。2012年の「ベストペット」という大会に出ていた都城高専の「追跡!完璧リン」というキリンのロボットと鈴鹿高専の「Emperor」というペンギンのロボットをみて、高専に行こうと思いましたし、ロボコン部にも入りました。

高専ロボコン以外には何があるでしょうか?
あまり知られていないかもしれませんが、デザコン(全国高専デザインコンペティション)プロコン(全国高専プロコン)があります。
最近ではDCON(全国高専ディープラーニングコンテスト)がアツい、とちょっとしたニュースになっていました。

上記のコンテストには特徴があります。そう、全部技術系のコンテストです! 高専の面白くて素晴らしいところは、覚えた技術を使う場が沢山あるというところです。
 加えて、学校もコンテストなどの発表の場に出ることには協力的なことが多いので、先生や技官さんが協力してくれたり、高価な機材を使わせてくれたりします。
 私がロボコンに参加していた時は汎用フライスや汎用旋盤は使い放題でしたし、技官の先生にお願いすれば、ワイヤ放電加工機などのNC加工機も使うことが出来ました。

 私はロボコンにお熱だったので、実習工場に入り浸ってフライスや旋盤と仲良くしていましたが、デザコンやプロコンに参加していた人たちも似たり寄ったりそれぞれの部屋に入り浸ってコンテストの準備をしていたように思います。

これは全く素晴らしい環境だというほかないですし、高専から卒業した身分にってあの頃の環境が羨ましくって仕方ありません。

なんやかんやみんな技術者になっていく

さてここまで、高専で参加できるコンテスト中心に書いてきましたが、「じゃあコンテストに参加してないやつはどうなんだ」と思うことでしょう。
実際、コンテストに参加するのは少数派です。

 大多数の高専生は普通に部活をして普通にバイトに励み、そして進学や就職の道をたどります。それは普通科の学生と同じように見えますが、ここが高専の面白いところで、高専を出る頃にはなぜかみんな高専に染まりきって社会に出ていきます。
 例えば機械科の学生なら基本単位系がセンチメートルからミリメートルに変わりますし、鋳鉄と言われれば球状に析出した黒鉛を思い浮かべるようになりますし、誰かが面白そうな機械機材を持ってきたらなぜかワラワラ群がって構造を観察しだします。フライスや旋盤で部品作ってと頼まれれば、「できない」ではなく「精度出ないけどいい?」と言い始めます。

もちろん最初っから皆がみんながこんな感じではありません。
5年間クラス替えもない学校で授業や寮生活を送っていると、なんとなく皆のことを知っていくと、「アイツがなんか技術を持っているぞ」と知れ渡ります。そのアイツのところに皆が寄って行って、その技術がなんとなーく皆に伝染して、皆がそれとなーく技術を持つようになります。
 5年間顔を突き合わせる数少ない、けれど大きなメリットだと今は思います。

また、変人や変態(技術的な意味でね)が集まりやすいのも高専の特徴です。まぁ大体の変人変態はコンテストなんかにのめりこむことが多いのですが、彼らの行動は一般高専生の感覚を狂わせます。日常会話にあまりに専門用語や特殊用語が出てくるので、いつしかそれが普通だと思うようになり、気づけば一般高専生も立派な高専生となっているのです。

それが高専に染まるということだと今になって気づくわけです。

まとめ Q:高専はどんなとこ?

A:変な人がいっぱいのところ。だがそれが良い。そこが楽しい。

昨今の情勢では難しいですが、コロナが落ち着けばいずれ高専祭や学校見学会が一般の方向けにも開かれると思います。ぜひ一度近隣の高専に遊びに行ってみてください。きっと面白いものが見れますよ。

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