見出し画像

ブルースに追いつかれちまった。

うー、ヒッく。大分が産んだ名酒、いいちこ900mlパックがそろそろ底を尽きそうな
午前6時半。

今朝、近所のおっちゃんからもらったばかりの日経新聞に対して未だ「広げようか否か」の段階で睨めっこ中の僕を尻目に、

フィルターぎりぎりのラッキーストライクは、随分前から煙の吐き方を忘れているようだ。


「コロナ専念 救急医療縮小」
「JAL 3千億円融資要請」
「雇用助成金 拡充を検討」
「パチンコの6店名公表 大阪府」


ほほぉ。フムフム。なるほどなるほど。



あー。いいちこうめぇ。



うん。そんなことよりもね、
あっしはロックンロールしたいんス。
早くあの子に逢いたいんス。

そんなことよりストーンズの話が、
そんなことより毛皮ズの話が、
松本大洋の話が、


女の子の話がしたいんス。



あれ、
そもそも"女の子"ってなんやっけ?



んー。



もしかして、良い匂いします?
それとも意外と臭かったり?
もしかしてそれ、柔らかいんスか?


えっと。
気がついたら隣から消えてますっけ?



あらら。僕はボニーとクライドになりたかったんかな。それともシドアンドナンシー?
ジョンとヨーコだとか、寅次郎とリリィだとか

本当にそんなBOYミーツGIRL望んでたんか?



「俺ほどの男が!」
「俺ほどの感受性が!」
とは今は昔、西の夜更けに置いてきました。

馬の骨より価値のない僕に、生きろ、だなんてお節介を焼きに1Kアパートのドアをノックしに来てくれるガールも居なけりゃフレンズも居ないわけで、

そんなスタンドアローンな状態をも、
ブルースは「ニカッ」と銀色の歯を見せて笑ってるんスわ。



そう、とうとう奴に追いつかれちまった。



思い返せばどんな時も奴は側に居たっけな。

初めて平仮名を書けた時も、
公園で逆上りの練習をしてる時も、

万引きとカツアゲの濡れ衣を着せられ
母と共に教師に怒鳴られてる時も、


母は泣いていたけど、

「ニカッ」

ブルースは笑っていた。




箸にも棒にも掛からない終わらない日常のお陰で、
奴のことをすっかり忘れてたよ。

叱ってくれない、
生きろとも言ってくれない。


ブルースは「ニカッ」とだけ笑って、
ただそこに立っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?