〈練習問題③〉 長短どちらも 答2

※『文体の舵をとれ ル=グウィンの小説教室』(フィルムアート社)の課題用に書いたものです。

 早朝の散歩中、いつもの道を曲がると、スピッツのように毛がふさふさとした黒い犬が目の前を猛スピードで駆けていき、このご時世にリードをつけないで飼い犬の散歩をする人がいるのかと周りに目をやるが誰もおらず、あれはどこかの家から脱走した犬ではないかと思って黒い犬を追いかけるも、運動嫌いかつ運動不足気味の四十代の脚力ではとうてい追いつけず、数十メートル先を走る黒い犬はまたもや角を曲がるので思わず待ってと声が出てしまい、声を出したと同時に息が完全に上がってしまったので早歩きに切り替えて後を追うが、黒い犬の姿は黒豆から黒ごまサイズへと小さくなっていき、環状線にぶつかる手前の交差点を曲がったところで完全に姿を見失い途方にくれていると、走っている最中にちらりと見かけていた芝犬を連れた青年がこちらにやってきて、リードなしで走っていたのはあなたの犬ですかと訊いてくるので、自分の犬ではないのだが飼い主さん困っていると思うから捕まえられないかと追いかけていたことを説明すると、さっきあそこの庭で休んでいるのを見かけましたよと教えてくれ、まだ休んでいることを願いながら二人と一匹で庭に向かうと、そこは庭というよりも造園用の樹木を育てている区の管理地で、低木が何本も育っているので、黒い犬が寝そべってでもいないかとしゃがみこんで庭を見通してみるがどうにも犬がいる気配はなく、少し離れたところで同じくしゃがみこんで庭を見ていた青年が立ち上がりながらいないですねと言うと、困り気味の声のテンションに反応してか芝犬が小さくクンと鼻を鳴らしたので、同じ犬なら黒い犬が近くにいたら匂いとかに反応して何かしらのそぶりをするのではと思い、芝犬を観察してみるも青年の顔をじっと見上げているだけなので、この様子だと黒い犬はもう次の場所へと移動してしまっているなと直感した。