ここがかっちぇー、馬場辰猪

・「日本語文典」 西欧かぶれの批判の仕方

近代西欧文化サイコー!と「簡易英語採用論」で日本語廃止を主張した森有禮。(昔からいたんだね)これに対して 「日本語も一般的な法則によって支配される合理的な文法であること」を日本語文典で明らかにした。
「この西欧かぶれめ」と非難するのではなく、日本語を分析して「西欧の合理的言語」と変わらないことを証明する、批判のスタイルがクール。

・「日英条約論」

「いまや、われわれは、現行条約にふくまれている以上のような問題点を討議し、それをそのままにしておくことが正しいかどうかを、イギリスの国民に向かって問いかける時が来たように思う。わたしは、そのままにしておくべきではないと、強く主張した。というのは現行の条約が、すでに多くの損害を日本人にあたえているばかりではなく、イギリスの名声をも傷つけていると思うからである。いまや、両国民の利益のために、完全な平等と正義の原則の上に立って、新しい条約が、両国政府の間で締結されるべきである。」
9条の理念を実現するには、これくらいの知力、胆力、交渉力を維持せにゃならんのだろうな。

・決闘を申し込む

江戸留学を終えて土佐に帰る旅で江戸に向かう板垣退助率いる東征軍と会いながら、土佐に戻るとまたすぐ長崎に留学。
戊辰戦争を戦った眞邊戎作と口論で顔につばを吐かれたことで後日、決闘を申し込む。英国では決闘が禁止されていたのでフランスへ渡ることを提言。冷笑されて激昂、斬りかかって額と両耳に数箇所の障害を負わせたと。
少なくともガリ勉だけの気弱な人ではなかったみたい。

・国際関係の到達点は「人民ト人民トの交際」

第一に「野蛮ノ交際」、第二に「政府ト政府の交際」、第三に「人民ト人民トの交際」。第三に至ることができれば、上の連中が小紛議を起こしても人民の輿論に背馳してまで戦争に至ることはない、と。
実際、英国の一般人は不平等条約について知らなかったので、政府間に留まらず、民間の交流を深めることで、これを周知することが不平等条約改正に至る道と考えたのだね。
これぞ人の正道、政治の王道。

・外憂よりはむしろ内憂

講演の禁止など専制政治を強める政府に対して、「藩閥政治恐るるに足らず」と。
自由民権運動が恐れなくてはならないのは「外憂よりはむしろ内憂」。「各処に一小部分の数多の政党が起こり、之れがために一国政党の大団結を妨害し、遂に内よりして言う可からず弊害を発生せんことを恐れる」
古今東西、抵抗する自由主義者の分裂は定番の自滅パターンなのであろうな。

・物は見る所に依りて異なる

自分にはストイックな馬場辰猪、講演名「物は見る所に依りて異なる」にあるように、民権運動は主義の違いで喧嘩にならないようにと穏健なのであった。メディア不信が広まるネット時代、「物は見る所に依りて異なる」を心に刻み、議論を人格批判に貶めないようにしたいもの。

・自由党盟約三章

「第一章 吾党は自由を拡充し、権利を保全し、幸福を増進し、社会の改良を 図るべし。
 第二章 吾党は善良なる立憲政体を確立することに尽力すへし。
 第三章 吾党は日本国に於て吾党と主義を共にし、目的を同くする者と一致 協力して、以て吾党の目的を達すべし」

とくに第三章、多様性を軸に連立して独裁的政権と対峙する現野党の人たち、「排除します」で排除された人たちの集団は自覚的であってほしいもんだ。

・板垣退助と決裂

やっと結党、さあ国会という時期に、藩閥政府が用意したカネ(であることが後日、明らかになった)で外遊にでちまう板垣退助に「この大事なときに何いってんの、半年ていどじゃ何も学べないし」と反対するも翻意ならず。
やがて、中核メンバーらと自由党を離党、飛び出した理由が「自由党が結党の精神を裏切り続けてきたから」てんだから、民主党から「国民の生活が第一」が飛び出したときと同じね。

・渡米する民権家

集会条例(公衆の安寧を乱すと認められた時は、集会を解散することができる。)によって自身の仕事(自由民権運動の講演)を奪われた時点で、彼にはもう居場所がなくなっていたんだろうな。
「十七日(木)。今朝大石は床を離れて、日本の政治について語っていた。しかし、わたしはもうその問題には興味がない。日本をはなれるやいなや、私は日本人ではなくなるように思う」
自由民権運動の志はそのままに渡米しちまうのは、仲間にも希望を失っていたんだろうと推測する。
でも、自由民権思想に身を捧げた彼には、自分のやれることが無くなれば国を離れるってのは、絶望して悲嘆に暮れるってのでなく、合理的行動をしたまでなのかも。

・最後まで民権運動家として

自由党解党後、各地で発生する秩父事件のような自由民権運動を弾圧する藩閥政府を米国内から批判する「日本政治の状態」を出版(直後に客死)。
「もしアメリカ政府が内閣の立場に同意するようなことがあれば、日本で排外的な反応がおこることは間違いない。そのような場合には、日本の民衆は、アメリカ人を、自分たちの友人としてではなく、出版と言論の自由を抑圧し、気高い志をもった日本人をたえず牢獄と死へ追いやっている専制の味方と考えるだろう」
表紙の言葉は「頼むところは天下の輿論,めざす仇は暴虐政府」、かっちぇー。

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