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植野DatPiff日記2

ミックステープとは何か?言い換えれば、ミックステープとは何ぞや?最大限にざっくり言うと、無料のアルバムのことだ。ただ、フリー、お恵み。

自分のこの歳には、ミックステープという名前は別物だった。まるでR&Bがいつのまにかオーティスやサム&デイブではなくなっていたように、まるでBeckがジェフ・ベックじゃなくなっていたように、、、遥か昔、ジョンと言えばレノンだったが、いつのまにかバスの中で若者が、ジョンがさあ、と言えばそれはボン・ジョビのことになり、更に時は流れてフルシャンテのことになった。現在は誰なのか、もう見当すらつかない。エントウィッスルでないことだけは確かだ。

ミックステープ、それはヒップホップのDJが作る選曲カセットのことだった。ただセレクトして並べてるだけではない(それも重要ではあったが)。全編合間合間に、DJのスキルがこれでもか、と示されているものを感心するものだった。渋谷のDJショップに行き、音質のあまりよろしくないDJプレミアのカセットを2000円も払って買っていた自分がふとよぎる。俺はDJになりたかったのか、、、?

ミックステープはやがてミックスCDというものになり、値段もやや下がり、今ではミックスクラウドという場所でただで聴ける。ここで何か繋がったような気がした?

というわけでDatPiffである。今回は、ジェイ・エレクトロニカ。名前がすごい。音楽のジャンル名が苗字だ。日本だと室内楽隆司、みたいな。さぞかしエレクトロニカなのかと思って聴くと、おいおい話がちがうじゃねえか、ということになる。

この人もまた変な人だ。2009年頃にミックステープ1つと数曲をただで発表して話題になり、ジェイZのレーベルからアルバムを出すことになり、そしてついに出たのが10年後、今年だ。まるでおとぎ話である。10年も待つレーベル(ジェイZ)も大したものである。今頃、次のアルバムは2030年頃かな、という話でもしているのだろうか?前回取り上げたリルBとはまるで正反対である。

アルバムを出さない10年間、一体何をしていたかと言えば、エリカ・バドゥと付き合ったり、金持ち令嬢と付き合ったり、イギリスの金持ちの家を渡り歩いたり、、、人に好かれやすい人柄なのかな、、、?

10年前にパラパラと放出した曲を集めたものが、この”What The F*ck Is A Jay Electronica”(22曲入り)である。他にも、もう少し曲が入ってCDだと2枚になる量のベスト”Best Of, So Far: Jay Electronica”(40曲入り)もあるけど、ジャケがクールなのでこちらにした。どちらもたぶん、他人が勝手に編集したものだ。本人はどこ吹く風だろう、たぶん。

ここで、ミックステープに話を戻す。これは僕の完全なる妄想、ウィキペディアすら参照してない考えなんだけど、ヒップホップは登場した時、かなり自由な空気があった。自分もかなりショックを受けたクチだ。だって、他人が作った、既に発表されている音源を知り合いでもないのに勝手に使って、それを自分の音楽としていたんだもん。え、それ、アリ!?みたいな。自由な発想の才気走った名作がバカバカと誕生した。

もちろん、それでいいわけじゃなかった。ジャスラックが黙っていなかった。アメリカだからジャスラックじゃないけど。アメリカのジャスラック的な。勝手に使われたミュージシャンも黙っていなかった。おかげで、大傑作を作り上げたヒップホッパー達は、せっかく大ヒットしたアルバムのお金も全然入ってこなかった。ヒットしなければ大赤字になっていたのだろうか?切ない話だ。

それでみんな慎重になって、許可されてるものや使用料の安いもの、などで工夫してトラックを作り始めた。自分でドラム録りして、それをサンプリングするっていうのもあった。それはそれでまた、試行錯誤の結果新しい傑作群が生まれたわけだが、自由な雰囲気はどうしてもなくなってきた。

そこで生まれた発想が、アルバムを売るんじゃなくて、ただにすることだった。ちょうどインターネットなるものが普及してきたので、そこに発表すれば制作費や人件費、流通費などがほとんどかからなくて自分の音楽が世に発表できる!そんなピュアなフィーリングのフルーツがネットにエクスプロージョンしたのだ。

その大量に破裂した真夏の果実の汁を、ごくごくと飲んでいるのが俺ってわけである。こりゃ美味いわー、とか言いながら。その汁を君にも分けてあげようと思って、こういう駄文を書いているのである。本当は自分だけの秘密にしときたかったのだが、飲んでも飲んでも飲みきれない上に、1人で飲んでるのはさびしいものだ。ここにも美味しそうなのがあるよー、とか教えて欲しい。教えて欲しい。

さて話をミックステープに戻す、、、いや違った、エレクトロニカに戻す。ニンジャ・チューンっていうレーベルがあって、、、いや違った。ジェイさんの話だ。10年たってやっと出たアルバム”A Written Testimony”は、感動的な傑作だった。このアルバムもDatPiffでフリーダウンロードでじゃないが、ストリーミングなら全部聴ける。結局もう1人のジェイさん、Zのほうもほぼ全面参加していて、さすがにクソカッコいいラップを聴かせてくれる。音のほうは、今をときめくプロデューサー陣を起用しているのが嘘のように、どこか音質が良くないようでもあり、トラックも古いようでもある。最初はそう思った。しかし何か違う、、、それは上手く説明できないけど、確実に新鮮な感動があるのは確かだ。

特に最後の曲、’A.P.I.D.T.A.’は、イスから乗り出すほどのいい曲だった。イスから乗り出し、床に跪き、そして気づけば涙を流している自分を発見するような名曲だ。一体何だこれは?サウンド的には、ただのバンドとのセッション音源のようだが、、、

この後ろで演奏しているのは、khruangbinというバンドで、この曲自体も彼らのアルバム”Con Todo El Mundo”に入っている’A Hymn’って曲だった。ジェイさんは、ネイション・オブ・イスラムに傾倒してるらしいから、何か宗教的なつながり、アイデアで今回の起用になったのかな?とは思うが、そっちは沼っぽいので詮索はしない。とにかくいかなる原因、背景があろうと、聴いて大変感動したのは間違いない。

(Ueno)


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