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植野DatPiff日記20ヨンリーン

日本語で大きく「深い悲しみ」って書かれたびみょーなデザインのジャケを見つけて(DatPiffで)、この人の他の作品のジャケも見てみたら、今度は同じく大きな日本語で「ヨンリーンやりー」ってのが更にびみょーなジャケであって、どうやらこの「ヨンリーン」が、「Yung Lean」なのかな?これって、「ヤング・リーン」って読むんじゃないんだ、えーホントにそうなのかなー、、、とか思いながら聴いてみました。他には、たまらなくヴェイパーウェーブなデザインの「neal yung 2003」ってやつと、これまた日本語がジャケに登場する「Unknown Death 未知の死 2002」ってやつがあって、これらは全部、2014年に出たスタジオアルバムのファースト「Unknown Memory」以前のミックステープ的なものらしくて、何だか全部謎めいたような、やる気がないような、ふざけてるような、、、妙に惹かれてしまいました。

まず「ヨンリーンやりー」ジャケの「Sadboys 2001」から。いきなり1曲目の「OreoMilkShake」のキーボードリフがすごくよくてビビりました。めちゃいい曲!続く「Grey Goose」も、まるでBeat Happeningのような曲とド下手風味の歌のギターポップないい曲で、3曲目にやっとラップらしきものが出てきて、次の「Ginseng Gtrip 2002」がまた民族音楽声みたいなのを使ったいい曲。5曲目「The 5th Element」はエモラップぽい感じで、次の「Plastic G-Shock」はチルウェーブ的なキーボードに暗めのラップ。こういうのをクラウドラップって言うのかな、、、ラップの時は基本的にダウナー暗めです。リヴァーブがやたら深くてモゴモゴしてます。

以降は、どんどんヴェイパーウェーブ化していくトラックたちや、更に低くモゴモゴしていくラップや、すべてがぼんやりとリヴァーブの奥に隠れていくような感じで、ちょっとBeckのメジャーデビュー前の「Stereopathetic Soulmanure」のほうの雰囲気があります(例えがもう古いか、、、)。

続いて「Unknown Death 2002」は、どうやら一般にはデビュー・ミックステープということのようです。Sadboys 2001に比べると、全体的にヴェイパー感と根暗ムードが増します。それでも曲のポップセンスは確実にあり、「Nitevision」、「Gatorade」、「Hurt」、「Lightsaber」、「Lemonade」、「Emails」、「Heal You - Bladerunner」、「Solarilare」といい曲がずらりと並びます。なんだ、かなりいい作品じゃん!、、、明るいポップな曲がなくなったのが、少々残念ですが。

ところでこの人、スウェーデンの人なんです。この時期に、この場所でこういう音楽っていうのは、結構先駆者的なところがあるみたいで、かなりコアなファンもいる様子。そしてやはり本人は日本は好きみたいで、来ていたこともあるみたいです。「Kyoto」っていうモロなタイトルのシングルもあります。

そして次は「Neal Yung 2003」、これも他の2つと同じく2013年に出てます。何なんでしょうね、2001とか2003って、、、いちおう順番に聴いてますけど、、、この作品はジャケからしてヴェイパー度が高いですが、内容も順当にそうなっています。変なトラックやおしゃれなトラックなど色々あって結構楽しい内容です。明るくてポップで変な展開があったりする「Plastic Boy」と、若い女性の日本語会話とヘタな歌が同時進行する「Narashino」、かなりキャッチーなシンセのコード進行な「Die With Me」、その次の女性ヴォーカルとラップの同時進行が気が狂いそうになる、でもいい曲の「Ginseng Stri-D6p」が好きな曲でした。これは、かなり好みの作品でした!

、、、とここまで書いて、13年発表の「Lavender EP」というものがあることに気付きました。DatPiffにはないんですが、、、2013年にいっぱい出してますね!

このEPには、「Ginseng Strip」って曲が入ってて、こちらは「Ginseng Stri-D6p」の女性ヴォーカルが入ってないバージョンでした。どうやらこの曲がサンクラ・ヒットしたみたいで、当時16歳の少年の華々しいデビューだったようです。MVを見ると、かなりかわいらしい坊ちゃんって感じです。

そして例の「深い悲しみ」は、2014年に「Unknown Memory」とほぼ同じタイミングで出たっぽい「Profpund Sadness 2004」です。これ以降、2004とか2005はないので、どうやらこのワケの分からないミクステ4部作もこれでおしまいのようです。ちょっとさびしいですね。

これは、全体的にかなりポップクオリティのある内容で、1曲目の美しいシンセフレーズの「Nekobasu」から、男性声とストリングスシンセが格調高い2曲目の「Building」、バカみたいに明るい4つ打ちトラックの「Marble Phone」、ボーン・スリッピーなヴォーカルから入る優雅な「Kyoto」と、「どこが深い悲しみじゃい!」と言いたくなりますが、リリックがそうなのかもしれません。最後の「Re-Change」も相当にいい曲です。

ここにきて、ヨーロピアン感覚の美が炸裂している感じです。ちょっとウルトラヴォックスを連想します。これはUS本場のトラップにはないオリジナリティじゃないでしょうか?

スウェーデンの人がトラップ?って最初は思っていたんですけど、そういえば北欧ってジャズの時も日本と並んで受け入れが早かったんですよね、てジャズのこと語ると恐いですが、、、ブラックカルチャーに対する伝統的な受け入れというか、、、他にこういうYung Leanみたいな人がいるかどうか知らないですけど、、、

彼に影響を受けて、Lean Chihiroなる名義で活動する、フランスの日本好きの人(ややこしいな)の音源もDatPiffにあったんで聴いてみました。17年発表の「Reborn」です。5曲だからEPなのかな?

サウンド的には、Yung LeanというよりLil Yachtyのほうが近い感じでしょうか。時々、日本語が聴こえてハッとします。1曲目の「Sayonara Ningen」では何度か「まわりのやりまんたくさんいます。でもみんなしんでしまえ」って聞こえてきます。

「Chihiro」の名前は、「千と千尋の神隠し」からみたいです。ジブリは偉大だー。

そしてヨンリーン様に戻り、ついにスタジオアルバムデビュー「Unknown Memory」です。「Sunrise Angel」、「Yoshi City」、「Monster」、「Volt」、「Sandman」、「Helt Ensam」が特に好きでした。トラックは全体的にグレイトで、このアルバムがインストだったとしてもいいアルバムなぐらいだと思います。ラップ、歌のほうも力が入ってて統一感があり、アルバムの構成もいいです。なんと、トラヴィス・スコットがゲストでいたりします。ある意味、デビューにして完璧な作品です。しかし、、、自分はその前のミックステープたちが懐かしく感じます。

次の作品は、フロリダでレコーディング中に後味の悪い事件が起こった、ちょっと不吉なスタジオアルバム2作目「Warlord」です。16年発売。滞在中にYung Leanはかなりのヤク中になっていたようで、そのせいでマネージャーの車事故を引き起こしてしまい、マネージャーさんは死んでしまいます。そのせいか、リリース後もゴタゴタがあったっぽいです。レーベル側の色々手を加えた正規盤と、亡くなったマネージャーさんの遺族と友達が発表した、そのままのブートが出てしまったようです。まるで、60、70年代のロックンロールみたいな話ですが、トラップというジャンルは、実は結構な数の人が死んでいます。主にオーバードーズと殺人だと思うんですが、6、70年代と違うのは、みんなもっと若いってところです。20歳前後で死んでしまった人達が多いと思います。

その事件のせいか、もともとそういう路線だったのかは分かりませんが、Warlordは一層陰鬱な雰囲気の内容になっています。ホラーっぽいサウンドまで入っています。そういう意味では統一感及び完成度はマックスで、特別な作品になっています。中島みゆきで言うと「うらみ・ます」みたいなものです。

同じ年の終わりに、今度はミックステープアルバムとして「Frost God」が出ます。ここには柔らかさと透明感、それに美しさがあって、実にドリーミーでスローで、サイケデリックな感覚があります。「Hennessy & Sailor Moon」、「Cashin」、「Crystal City」、「Kirby」なんかは、その極みのように思えます。実は自分は一番好きな作品です。

17年の「Stranger」が一番有名な作品っぽいです。1曲目「Muddy Sea」から、音数が少ないけどきれいでノスタルジックで独特なトラックが流れます。基本がすごいシンプルでスローなので、細かい音処理や残響などが光ります。2曲目「Red Bottom Sky」も同じような感じです。両方、キャッチーさも獲得しています。

売れ線というより、自然に持っていたポップス感覚が噴出した感じです。明るめのFrost Godといったところでしょうか、最高ですね!「Silver Arrows」や「Metallic Intuition」、「Push / Lost Weekend」、「Drop It / Scooter」もそんな感じで、90年代ぐらいに流行った、エレクトロニカに通じる感じもあります。

「Hunting My Own Skin」や「Agony」なんかは、キャッチーすぎて、ほとんどもうギターポップみたいだし、異国情緒漂う男性ヴォーカルの印象的なループの「Iceman」は、ヒットR&Bみたいです。ただ、Agonyはドラッグまみれ後のかなり告白的な内容のリリックのようです。

最後の「Yellowman」のトラックは、なぜか胸にぐっとくるものがあります。広大なスケールの歴史系の映画のサントラのようです。例えがあまり上手くないですが、、、

このように、ほぼ全曲いい曲で、しかも今までの本人の色んな要素を明るめにまとめたようなところもあり、大変な充実感のアルバムです。彼の最高傑作ではないでしょうか。

18年発表の「Poison Ivy」は、全体的にウルトラヴォックス&耽美エレクトロニカ感が強まっています。こうなると、自分は知らないけど、日本のアンダーグラウンド・ヒップホップのJ-Pop化してない部分に、似たような音のアーティストがいるんじゃないか?と思いを馳せてしまいます。

1曲目の「Happy Feet」、「Silicon Wings」が好きでした。

今のところ最新作は、今年5月に出た「Starz」のようです。ジャケがいつになく明るめのポップな雰囲気ですが、内容は相変わらず美しく曇っています。

ここには、ヨンリーンの今までの集大成があります。トラックはすべて完成度が高く、キャッチーで手が込んでてよくまとまってて、特に「Yayo」とかすごくいい曲です。「Pikachu」はヤングサグのカバー?クラウドラップというジャンルの中では飛び抜けていて、間違いなく傑作です。

ただ一方、今までと同じなような気もしてしまいます。何だか魅力があまりないようにも感じます。初期の頃にあったユーモアは微塵もありません。なくてもいいのかもしれないけど、やはり少しさびしい気がします。曲調のさびしい、とは違って。これが「成熟する」ってことならば、アーティストにとって成熟って何なんだろうな、と思ってしまいます。自分が好きなアーティストは、音楽のみならず生涯成熟とは無縁な人が多いです。成熟の先には何があるのでしょうか?

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