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植野Datpiff日記15チーフキーフ上

私的トラップ四天王の中でも、一番過小評価されてると感じているチーフ・キーフです。登場がインパクトありすぎたし、ヒットしすぎたっていうのもあるかもしれませんが、素晴らしい作品が多数ある優れたアーティストであるにも関わらず、評価がイマイチな気がします。

2012年のメジャーデビューのファースト「Finally Rich」の大ヒット曲「I Don't Like」のMVやアルバムのジャケの写真で伺える風貌で17歳、しかも発売時は刑務所にいた、ていう色々とヤベー奴設定が揃ってたんで、そのイメージが強いのはしょうがないです。そしてその後はすぐメジャー落ちして、インパクトと勢いで言えば確実に減少しているので少々一発屋的な印象があると思いますが、、、て、僕がそうだったんですけどね!

初めて聴いたこのキーフのアルバム「Finally RIch」で衝撃を受けたんで、その後はどの作品を聴いてもそれ以上テンションが上がることがなかったんです、その時は、、、ただ、なんか気になるというか、ずっとコンスタントにアルバムを出し続けてるし、ジャケもおどろおどろしいやつからかわいらしいやつ、手抜きみたいなやつ、と色々なパターンがあるので(そしてどれも個人的にはひどいなあ、と)、何だかよく分からないアーティストだなあ、と。

自分の耳が変わるきっかけになった作品は、「Almighty DP」ってやつなんですけど、それはまあ後で述べるとして、まずは衝撃デビュー以前のミックステープから。11年の「Bang Mixtape」です。

Finally Richを「衝撃のデビュー」とか書いちゃったんですけど、この最初のミクステに入ってる曲「Bang」のMVが公開された時、既に大きなインパクトはあって、大きな反響もあったようです。自分は最初は、音が悪い印象であまり聴いてなかったんですが、よく考えたら自分、いわゆるローファイとか、デモ音源とか音が悪い音楽好きじゃん!って思って。

で、ちゃんと聴いてみたら音の粗さも音量のバランスの悪さも、シカゴの危険な匂いが地下から這い上がってくるような、幾分ロマンを感じる作品でした。この時キーフは16歳か、、、自分が16歳の時を考えると、もうすべてが完全に負けてますね、、、声が一番ヤバいよね、これで16歳って、、、めっちゃ「バイン、バイン」言ってるし、、、Bangを「バン」じゃなくて、「バイン」と勝手に発音してるとこに、既にリズム感と瞬発力を感じます。

この作品は、「ドリル・ミュージックを作ったのはシカゴにいた日本人」という伝説の、DJ Kennがプロデュースなんですが、もちろんバリバリ現役なので全然伝説じゃないんですが、最初にそのことを知った時は更にロマン度数が跳ね上がりました。だから、真実って分かった時は、なんてすごい話なんだろう、て感動しました。

DJ Kennさんは若い時に山形から、英語も喋れないしお金もないのに、ヒップホップをやるためにいきなりUSに渡ります。本当は、少し東京にいたりニューヨークにいたりもしたみたいですが、結果的にはシカゴの黒人居住区でホームレスでスタートで、、、って、自分なら一日も生きてられそうもない状況ですけど、、、で、住む家を紹介してくれたのがチーフ・キーフのおじさんだった、と。すごい運命!

で、ケンさんはレストランで働いたお金で徐々に機材を揃えて、ホームスタジオを作ったところで、キーフが興味を持って遊びに来て、てこの時点でキーフは11歳だったらしいですけど、自分が11歳の時って、、、短パン&ランニングでカブトムシつかまえてたぐらいか、、、そこまでじゃないか。

こうして集まった中に、ケンさんとキーフはもちろん、ヤング・チョップとかフレッド・サンタナ(キーフのいとこ)とかいたって、役者揃いすぎじゃないですか?しかもたぶん、みんな完全独学で、そして一丸となってこの作品を作り上げたんだろうなあ、とロマン度数はマックスです。

そんなことを感じながら聴ける作品ってだけで、なんかもう胸が一杯に、、、なっちゃうとこの文章も終わっちゃうので、次の12年にリリースされたミックステープ「Back From The Dead」にいきます。

もう、タイトルとジャケだけで、ゾンビかガレージしか連想しないんですが(Back From The Graveっていう名ガレージコンピシリーズがあるんです)、トラップとガレージって共通点があるような気がします。簡単に言うと、各地方で同時多発的なところと、若者ならではの熱狂と粗さ、楽曲的な意味でオリジナリティの希薄さ、低予算制作、みたいな。まあ、だから何だよ、て言われれば、特に何もないんですけど、、、

この作品がまた、「Bang Mixtape」の喧噪、情熱、物騒さを更に拡大して重くしたようなすごい作品で、「Finally Rich」収録の「I Don't Like」も「3Hunna」も、既にこの時ここにあるんです。「Save That Shit」という名曲もあります。全体の雰囲気含めて、これこそが「シカゴ・ドリル・ミュージック」を象徴する1枚だと思います。そしてこの作品の存在が、キーフのメジャーデビューという早い展開を作り、このサブジャンルが一気に世界に広がることになるのです。

こうして順番に聴いていくと、初めて聴いた時にあんなに音のワイルドさと悪さ、ヤバさに衝撃を受けた「Finally Rich」ですら、さすがメジャーなクリアな音質で、少しソフィスケイトされた聴きやすい、キーフのこれまでのベスト盤的な作品に聴こえます。こう書くとダメなアルバムみたいですが、これはこれですごくいいと思います。

何と言っても、買って最初に聴いた時の印象が薄れた時、このアルバムにあるキーフの音楽の違う側面に気付くのです。それは、キーフのヴォーカルっていうものがただの強気イケイケなものじゃなく、どこか疲れてる、だらっとしてる感じがするが故の魅力とか、「Laughin' To The Bank」のような、ハハハって言ってるだけみたいな、ユーモアなのか何なのかよく分からないおもしろさとか(I Don't Likeも、ドンライーって言ってるだけみたいなもんですけど)、「Kay Kay」のような超キャッチーな感じとか(ちなみにKay Kayは娘の名前)、「Citgo」のようなふわーっとしたメロウな感じとか、意外とバリエーションがあるんだなあ、てところです。あと、「No Tomorrow」って曲、気持ちいい音だなあ、って思ってたらトラックはMake Will Made Itじゃん!とか。すごくいいアルバムだなあー。

自分がまだミックステープのことを知らなかった時、最近のヒップホップを聴いてみようと思ってレコ屋に行って買えた最初のCDがこの「Finally Rich」とFutureの「DS2」、Gucci Maneの「Everybody Looking」で、3枚ともそれぞれ並々ならぬ衝撃でした。これがトラップか、、、これでもラップなのか、、、ヒップホップすごいことになってたんだな、、、みたいな。今考えるとすごい3枚選んでますけど、、、それで、ユニオンやタワレコに行っては、Yのとこ見て「あー、ヤング・サグないじゃん」とか、Cのとこ見て「チャンス・ザ・ラッパーもないのか」って思ってた自分が愛おしいです。これ、去年末のことですからね、、、

商業的にはこのFinally Richがチーフ・キーフのピークで、この後レーベルから切られて自分でリリースしていくんですけど、ヤング・チョップとは離れつつも、音楽的にはここからどんどん広がっていきます。まずは、13年に「Bang Pt.2」と「Almighty So」がリリースされます。Bang2はDJ Holiday、Almight SoはDJ Screamと、まるでグッチ・メインのようなプロダクションが続きます。そういえば、グッチとのタッグ「Big Gucci Sosa」っていうのもありましたが、なんとなく設定したコンセプト通りのあまりおもしろくない内容でした。でも、ここからグッチとのつながりでこの2枚のプロダクションがあったのかな?

この2作、どの媒体も本当に評価が低くてガッカリなんですけど(ピッチフォークなんて取り上げてすらいない)、調べてみるとどちらも、ユーザーというか一般の人達の中には熱狂的な支持者がいることが分かってホッとします。どちらの作品もキーフの音楽の可能性が広がった野心作でありつつ、何度か聴いてもどこか奇妙な感覚が残る実験作でもあり、キーフの特殊性をビシビシと感じることができます。

まず、声にオートチューンがかかってます。それは別にいいんですけど、フューチャーかよ!って突っ込みたくなるぐらい似てる瞬間があります。もともとラップっていうか同じ言葉をキャッチーにリピートするスタイルだったので、そこから今度はもっと歌いだして、そうなるとフューチャーみたいになっちゃう感じです。でも、チーフも声自体がいいし、歌がいいですよね、、、

それで、どっちも画期的ですごくいい作品なんですけど、「Bang Pt.2」は何度聴いてもぼやっとしてるっていうか、たぶん聴けば聴くほどよくなるんだろうけど、キャッチーさはあまりないです。まあ、不思議な作品と言えばそうです。

「Almighty So」のほうは、前半が重くて暗くて音数が多い威嚇的な、従来のキーフのイメージを更に強めている感じなんですけど、後半は色々な試みとサウンドが広がっていて、声もちょっとザラザラと弱々しく思えるような感じがでてきます。音数もいつの間にか減って整理されています。「Me」の天才的なメロディや「Woulda Coulda」のサウンドを細かく切るっていう聴いたこともないような手法、「Baby What's Wrong With You」の速いスティールパンのキレイなフレーズに乗っかるキーフの閃きあるフレーズで感動的なトラック、「Yesterday」のスーパーキャッチーな感じ、など。聴きどころが多いです。「Blew My High」「Nice」もいい曲です。今回のジャケ絵は、この「Almighty So」です。もちろん、DatPiffでフリーダウンロードできます。「Bang」も「Bang Pt.2」も「Back From The Dead」もフリーダウンロードできます!

おそらくこのあたりの時期のドキュメンタリー、VICEの「noisey CHIRAQ シカゴの闇から生まれたドリル・ミュージック」がYoutubeでも公開されてて、非常に興味深い内容です。全体的にはチーフ・キーフとヤング・チョップがメインですが、Lil Durk、Vic Mensa、Joey Purpなども出て来ます。名物っぽいメガネレポーターのトーマス・モートンさんを終始シカト気味のキーフと優しくフレンドリーに細かく答えるヤング・チョップ、いかにも成功したっていう邸宅で四輪バギーを乗り回すキーフと、自宅でお母さんと一緒に住んで地下のスタジオにこもっているチョップが対照的でおもしろかったです。日本だと考えられないようなひどい、ヘヴィーな状況で音楽を取り巻く超リアルな雰囲気をビンビンに感じ取るくとができます。

そして、ここで見れるシカゴのシーンの大きな変化は、やはりキーフの当然変異の才能に依るところが大きいことも伺えます。浮かれるアンダーグラウンドシーンの人達やプロデューサー達も、キーフのような奴はその後出てない、と言ってたし。みんがキーフを(ちょっとリル・ダークも)中心に回ってる印象でした。

レポーターの「成功の秘訣は?」という質問に、「頑張るしかない」と答えるヤング・チョップに誠実さを見ました。非常にラブリーな人物でもあります。

(続く)

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