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植野DatPiff日記12ヤング・サグ(下)


2015年からのSlime Seasonシリーズ、3が一番聴きやすいんですが、それはたぶん単純に8曲という少ない収録曲のせいかな、と思います。1と2が多すぎるんですよね。聴き返してみてやはりどれも名盤なんですが、、、16年発表のSS3は、「I'm Up」っていうアルバムと2枚に分けたっぽいですね。「I’m Up」はゲストあり曲がメインで元気めな印象。この2枚に分けたことは、ある意味正解というか、、、SS1が18曲、2が22曲収録です。繰り返しますが、すべて名盤です。

SS1では、ラストの「I Wanna Be Me」が一番好きです。いい曲!そして2もまた本編ラスト(ボーナストラックが3曲ある)の「Raw(Might Just)」が一番好きです。これもいい曲!あと、12曲目のどうしても「六本木!」って聴こえてしまう「Pull Up On A Kid」も好きです。「プルアッポン・キッ!」って感じですね。キャッチーです。

SS3は1曲目「With Them」がいきなり最高カッコいいです。Make Will Made Itのトラック。そして2曲目「Memo」も3曲目「Drippin'」もめちゃカッコいいです。そしてやはりラス曲「Problem」がいい曲です。

このシリーズ、マイルスのマラソンセッションみたいに、4枚に分けて1年に1枚リリースしてもよかったんじゃないか、て思うぐらいです。そのぐらい量とペースの早さで損してるような気がします。「I’m Up」も合わせて7枚分のサイズがあると思うんで。

しかもこの名盤シリーズ、これで終わりじゃなくて、そのまま16年発表の「Jeffery」っていう名盤のクライマックスに行くんです。シリーズの前が「Barter 6」で後が「Jeffery」って、どんだけ勢いあるねん!ってぐらいです。2年間のデキゴトロジーです。

この「Jeffery」、ジャケのアートワークや曲名含めて色々おもしろい試みというか、ユーモアなのかマジなのか分からないヤンサグ節全開です。全曲いいけどやはりラストの「Pick Up the Phone」は最高にキャッチーです。この曲だけ人名じゃないけど、、、正確に言うと「Harambe」はゴリラさんのことらしいので人名ではないですが、、、ちなみに、「RiRi」はリアーナ、「Guwop」はグッチ・メインのことです。

いちおう書いておくと、すべてのアルバムのサウンドは最高絶好調です。いくつかの曲の出だしで「We gotTa  running on the train !」って聴こえるんですが、これらはLondon on da trackが作ったトラックなんで、「ウィ・ガッタ・ロンドン・オン・ダ・トラック!」って言ってると考えるのが妥当だと思うんですが、自分はどうしても「ランニン・オン・ザ・トレイン!」って聴こえてしまうんです。グッチの「ギャングスタ・ブラジル!」(これも妥当に考えればギャングスタ・グリル!なんですけど)の時のように、知ってる人もしくは聴き取れる人がいたら是非教えて欲しい!

そして「Jeffery」の次になんと、「Beautiful Thugger Girls」というこれまた名盤がリリースされるんです。これだけ名盤、名盤と連発してると名盤呼称の価値が下がってしまうんですが、これは本当にそうとしか言いようがないんです。僕もこんなに名盤を連発したくないんですが、本当なんでしょうがないんです。

この「Beautiful Thugger Girls」、なんとアコースティックギターが鳴る歌中心のアルバムなのです。最高です。確かにジャケではアコースティックギターを抱えてますが、まあ本気にしないじゃないですか?ところが1曲目からいきなりアコースティックギターがちゃんと聴こえ、ちゃんとトラップになって、、、思わず「おー!」ってなっちゃいます。完全に個人的な反応ですが、、、

このアルバムは、数曲アコギが入ってるっていう特徴もありますが、本人が「Singing Album」と言うだけあってか、分かりやすくレゲエやR&B、ラテン、カントリー、EDMが散りばめられています。何てこった!サザンオールスターズみたいな今日すらあります。こんなアルバムが出るなんて、誰も予想しなかったと思います。

普通のヴォーカル・アーティストなら、まあ普通のことですよね。でもヤング・サグに今更やられると大変驚いてしまいます。しかもめちゃめちゃいいし。

そして、いくつかミニアルバム的なものやFutureとのコラボアルバムを出した後、満を持してデビューアルバムの「So Much Fun」がリリースされるんですが、「ちょっと待て!」と思いませんか?「え、デビューアルバム!?」って、、、

ウケる〜というか何と言うか、ヤング・サグがすべて規格外なのはもう分かりきったことなんですが、Rich GangやBarter 6からSSシリーズ、Jeffery、BTGの名盤コレすべてミックステープだったってことになるんです。全部フリーだったんです。今でも、、、こんなことがあっていいのか、、、

正直、自分の中のアルバムリリースの概念は完全に変わってしまいました。色々と考えてしまった。リリースだけじゃなくて制作についても、、、これだけの天才鬼才による圧倒的な作品のクオリティと量がすべて無料、、、こんなクールでクレイジーなことは、音楽の歴史上あっただろうか、と、、、自分や知り合いや先輩達が一生懸命作ってきたもの、作っているものは一体なんだっけ?、、、ぐらいの。サグに比べればすべてが小さい規格内の出来事に思えてしまうぐらいです。

自分は現在、配信サイトやってて自分の作品もそこにアップしてて、そこでは他の人のものも全曲ストリーミング、試聴できるようにしてますが、始めた時は、というか今でも誘ったアーティストからたまに「全部聴けるようにしたら売れないんじゃないか?、どうやって食っていくのか?」みたいなこと言われても、ハッキリとした答えが言えなかったんですが、今では逆に「知らない人が聴けるチャンスがなくてどうやって売っていく、食っていくつもりなんだろう?」って思います。いいものは評判や口コミで広がるものだ、とも思うんですが、まあ無料のものから聴きますよね、、、

これはまだ議論の余地がある状況ですが、やがてすぐにその余地がなくなるのは明白だと自分は思います。それに、別に売れなくても聴いてもらうだけでもすごくいいことだと思います。自分がこれだけDatPiffの恩恵を受けているせいでもありますが、、、

あと、「自分はCDとかレコードとか、物自体が好きだから」もよく言われます。いちおう断っておくと、僕も大好きです。どっちも今でもバンバン買ってるし。自分の関わった作品がレコードになった時なんか、ものすごく嬉しいです。

最近はプラスチック製品を大量に作り出すということに抵抗がありますが、CDを作るコストのことも考えてしまいます。以前は、そうして苦労するぐらいのものじゃないと聴く価値がない、とかも思ってたこともありましたが、ヤンサグ聴いてしまったら愚かでしかない考えですね。

物を作る喜び、作ることで音楽以外の人と一緒に仕事する喜び、という点もあります。自分はまず音楽自体を作ることが一番楽しいんで、その後はもういいかな、と。物を作る喜び自体なら、CDじゃなくても音楽と関係なくても違うものでいいかな、と思います。他ジャンルの人との作業も、CD制作以外の色んな道があると思っています。

自分は無駄にノスタルジー、ロマンチックな部分があるので、リスナーとしては、こういう考え方が多少さびしくも思うところがあるんですが、作り手としては先のないことにこだわるより、より自由な可能性にワクワクしたいです。

結局、サグはCDというものを一度も作りませんでした。こんなに名盤ばかりなのに、フィジカルが存在しないのです(再発的にレコード化された作品はある)。なんだか今の自分には、神のようにも思えてしまいます、、、

そしてもちろん、デビューアルバムの「So Much Fun」も名盤なのです。これまでの集大成的な内容と豪華ゲスト陣でありながら、一切の気負いや気合いが見えない、不思議な居心地のいい超大作です。なんだか感動的ですらあります。

ヤング・サグとは一体何だったんだろう、、、いや終わってませんが、今のところ最新作のクリス・ブラウンとのあまり意味のないコラボアルバムを聴いていると、もう夢は終わってしまったような気がしてきます。もちろん終わるわけはないんですけど、これからこれ以上の何かがあることはちょっと想像できません。

でも、それは僕のような凡人だからそう思うだけで、きっと誰もが裏切られるような作品、行動をサグは見せてくれるでしょう。見せてくれなくても、もう充分なぐらいなんですが、、、個人的には、BTGの続編的なものが聴きたいなあ、と思ったりします。あと結局「Barter 6」が一番好きです。

今回の絵は、Beautiful Thugger Girlsです。現在でもDatPiffでフリーダウンロードできます。Slime Season1と2もできます。SS3とJefferyはストリーミングだけです。

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