YOASOBIの『夜に駆ける』について

YOASOBIのデビュー曲であり、一躍その存在を知らしめた『夜に駆ける』についての考察。

『夜に駆ける』の元となった原作は『タナトスの誘惑』。簡単なあらすじは、自殺願望のある彼女に一目惚れした彼氏が、自殺を思いとどまらせるよう試みるも、彼女の気持ちを翻すことはできず、ついには彼女と共に飛び降り心中する結末を選ぶといった内容の話。

1番の歌詞の『日が沈み出した空と君の姿フェンス越しに重なっていた』は、まさに屋上から飛び降りようとしている描写であり、MVも同様の景色となっている。そこから続く歌詞には、彼が彼女に一目惚れであった事、彼女の自殺を思いとどまらせようと、二人の明るい未来を語って説得しているさまが見て取れる。

2番の歌詞になると、彼氏の言葉には全く耳を貸さない彼女の様子が描かれていて、ついには彼も説得する事に疲れ果てて彼女と共に死ぬことを選んでしまう。と同時に、それは彼女が望んでいたことである事あることが、『「終わりにしたい」だなんてさ 釣られて言葉にした時 君は初めて笑った 』からわかる。

最終的にビルの屋上から二人で飛び降りてしまう結末なのだが、それを『夜に駆ける』と表現したのは、原作の『夜空に向かって駆け出した』の締めくくりから用いたものだ。

原作の『タナトスの誘惑』は比較的短い小説で、長さで言ったらむしろ歌詞の方が長いかもと感じる部分もある。そのあたりはAyaseさんの肉付けの上手さだと思う。また一方で、原作には表記のある『自殺』という表現は歌詞には一切出てこない。もちろん、歌詞に入れたら歌にするのは無理ではあるのだが。その部分はMVではきっちり補完されていて、これがYOASOBIの表現の妙味でもある。

私がこの歌の歌詞の中で注目したいのは『明けない夜』という表現。彼女にとって死を選ぶ事はもう決定していて覆らない物であり、それを『明けない夜』としていること、それに対し1番の歌詞で『怖くないよ いつか日が昇るまで二人でいよう』と、開けない夜に対して日が昇ると表現している(彼が説得している)対比が秀逸だなと感じた。

メロディーの方での私の注目点は、ラストの部分だ。この二人は最後に飛び降り心中という結末を選んだにも関わらず、曲のラストは爽やかな、なんともすっきりしたメロディーで締めくくられている。これは、少なくとも彼女にとっては死の選択は解放であり、ハッピーエンドなのだという事を曲でも表しているのだと思う。

原作とMVを観る限りの内容と曲調がミスマッチに感じなくもないし、原作を知らないまま聞いたら明るく楽しい歌のようにも聞こえる、そんな不思議な歌だとも感じる。かく言う私もMVを観てなんとなく想像はしていたものの、実際に原作を読んでみてハッとさせられたものだ。

ここまでは原作やMVを交えて考察してみたが、最後に単純に曲だけ聞いてみての印象についても考えてみる。

この曲はまずとてもテンポが速い。言葉数が多い。音の上げ下げが多い。メロディーに黒鍵(シャープやフラット)が多い。2番に入って急に曲調が変わる。ラスト前に転調、しかも下がる。その後再度転調して上に上がる。もう難しいのオンパレード。

私は子供の頃数年音楽を習っていたこともあり絶対音感を持っているので、比較的歌のメロディーを覚えるのは早いのだが、この曲は覚えるのにとっても苦労した。テンポの速い部分はまず歌詞をしっかり覚えないと歌う事すらままならない。なんとなくでカラオケに行って玉砕した人もたくさんいるのではないかと思う。

それでもしっかり頭に入ってしっかり歌えた時には最高に気持ちいい。これもまたYOASOBIの楽しみ方なのかもしれない。

#YOASOBI #夜に駆ける

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