更正処分が繰り返された場合の争い方

税務調査等の結果、課税庁になされた更正処分にについて争う場合に、注意しておかなければいけないのが、更正処分が繰り返されたときの争い方です。

行われた更正処分に不服がある場合、通常、「審査請求」の手続を経た上でなければ、裁判で争うことはできません(審査請求に先立って、課税庁自体に再考を促す「再調査の請求」という手続も用意されています)。再調査の請求や審査請求で更正処分が取り消されればわざわざ裁判で争う必要もないのですが、どうしても課税庁寄りの判断になりがちです。

そのため、最終的に裁判で争うことを見越して、通るとは考えにくい「再調査の請求」や「審査請求」をするというケースも中には出てきます。これは、租税に関する不服申立て制度がそのように設計されているためやむを得ないことです(なお「再調査の請求」は、更正処分を行った税務署等に再考を促すものでしかなく、課税処分の取消を求める手段として実効性が乏しいため、いきなり審査請求をする場合の方が多いのではないかと思います。)。

これは、逆に言うと「更正処分の取消訴訟を提起した段階で、その処分について審査請求の手続が経られていないといけない」ということです。例えば、審査請求手続を経ずに、いきなり更正処分の取消を求める訴えを裁判所に提起したとしても、訴訟要件を欠くとして却下判決(門前払い)となってしまいます(なお、関税等一部の税目を除いて、審査請求をしたのち3ヵ月以内に裁決がなされない場合には、裁決を待たずにその時点で訴訟提起を行うことができます。)。

「再調査の請求」にせよ「審査請求」にせよ、更正処分の通知を受けた日の翌日から数えて3ヵ月以内という結構短い期間制限があり、この期間内に行わなければこれらの請求自体も却下されてしまい、結局、「のちに裁判で争う」ということもできなくなってしまいます。そのため、課税処分を争いたい場合には迅速に専門家に相談し、対応を進める必要があります。

このように更正処分を裁判で争う場合には、その処分について適切に審査請求の手続が経られていなければならないということになりますが、同じ年分あるいは取引について複数の更正処分がなされている場合に、どのように対応するべきかはきちんと押さえておかなければなりません。

これは、当初の更正処分の後に、再度の更正処分(再更正)が行われた場合、再更正が税額を増額するもの(増額再更正)減額するもの(減額再更正)かによってとるべき対応が異なります。

まず、増額再更正の場合は、当初の更正処分の効力は失われ、増額再更正に吸収されると考えられています(吸収説、最判昭和42年9月19日・民集21巻7号1828頁)。そのため、増額再更正がなされた時点で当初の更正処分の取消を求める意味(訴えの利益)はなくなり、増額再更正だけを取消訴訟の対象としなければならないということになります。

一方、減額再更正の場合は、減少した税額にかかる部分についてのみ法的効果を及ぼすものであって、それ自体は当初の更正処分の変更(一部変更)に過ぎず、当初の更正処分を吸収する効果はないと理解されています(一部変更説、最判昭和56年4月24日・民集35巻3号672頁)。

この二つの最高裁判例の考え方が理論的に整合しているかという問題はあるのですが、この増額再更正、減額再更正の考え方から、

増額再更正があった場合→増額再更正自体について審査請求をしなければ訴えの利益が満たされず、取消訴訟ができなくなる(当初の更正処分に対して審査請求を行っただけでは足りない)

減額再更正があった場合→当初の更正処分に対して審査請求をしていれば、取消訴訟の訴えの利益は満たされ、減額再更正について別途審査請求する必要はない。

ということになります。

このように、更正処分を争う場合に、再度課税庁から更正処分がなされた場合には、改めて不服申立の手続(審査請求の手続)をとる必要があるか否かを慎重に検討しなければなりません。そのため、更正処分の取消について弁護士にご相談いただいている事案では、課税庁から行われた更正処分の全てについて資料とともにご説明いただき、また相談・依頼後に新たに更正処分の通知が届いたときにも、すぐにお伝えいただく必要があります。

なお、再度の更正処分とは異なりますが、課税庁から更正処分があった後に(その処分とは関係ない部分であっても)修正申告をしてしまうと、もはやその更正処分を争うことはできなくなると考えられていますので、この点も注意が必要です。

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