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本年度最後の交通事故研修会をPTで開催致しました。

事業者については本日、この年度末の最中に、本年度最後の交通事故研修会が兵庫県弁護士会で開催され、運営スタッフとして参加致しました。

これまで後遺障害逸失利益を巡って、基礎収入や労働能力喪失率を取り上げた回はありましたが、今回は休業損害、しかも会社役員や個人事業主、主婦、学生、無職者など、実務的に休業損害の評価が問題となることの多い主体を中心に取り上げるとあって、事前準備や打合せの段階から非常に興味深く取り組むことができました。地裁第1民事部の裁判官3名にも講師として登壇いただきました。

事業者についていうと、「休業したけれども減収がない」という場面でよく休業損害の請求の当否が問題となりますが、そのような場合でも単純に「差額説」から加害者に対する損害賠償請求ができなくなると帰結されるものではなく、場合によっては、受傷者の雇用主による企業損害として賠償請求が可能です。

ただ、休業損害証明書や源泉徴収票を提出してとりあえず立証の形が整うというケースでないことは明らかであり、今回の研修会でもいかに損害の発生、事故との因果関係を主張・立証していくかが重要であると再確認しました。

特に役員給与については、通常、労務の対価である部分とそうでない部分(=端的に言うと、会社の利益処分的性格を有する部分)があり、後者については、事故やそれによる稼働能力の喪失と因果関係がないため、休業損害から除外されるとするのが一般的です。

また、よく問題になるのが、個人事業者である被害者が確定申告をしていなかったり、していたとしても所得を過少に申告している場合です(無申告、過少申告のケース)。

このようなケースでは、そもそも確定申告書の控えや所得証明書といった資料を(そのまま)立証に使えないことがほとんどであるため、預金通帳や発注書、納品書、伝票など、生の資料から直接収入を立証するというプロセスが必要になります。のみならず、その場合、損害額に当たらない経費部分がどの程度かという問題も生じます(いわゆる固定経費に当たるか否かの問題)。

なお、過少申告や無申告のケースで、「被害者といえども申告していない所得を主張することはクリーンハンズの原則にもとり許されない」とする論調が一部にありますが、この点については個人的には違和感を感じます。

というのも、過少申告や無申告で問題とされる公平というのは、納税者間の公平として問題とされるべきもので、これを不法行為の加害者の賠償責任の問題と対置させる理論的・合理的な前提がありません。不法行為に基づく損害賠償に「損害の公平な分担」という趣旨がある以上、ここでクリーンハンズの問題を賠償上何らかの指標として用いるのであれば、そもそも加害者の側の手が汚れていないのか否かを問題とすべきということになります(そのような衡量が損害賠償実務でナンセンスだということは明らかですが)。

「無申告、過少申告の被害者が申告外所得の主張をするのはクリーンハンズの点から問題がある」というのは、要するに一般市民的な感覚から来る「あいつは税金をごまかしているからけしからん」という情緒的な感情以上のものではなく、課税の公平(タックス・パリティ)と被害者・加害者での損害の公平な分担の理念を混同するものでしかありません。

また、租税債務と損害賠償債務は請求権者が全く異なり、相互に補完・競合し合う関係にもありませんから、ここは明確に分けて考えなければなりません。

要するに、無申告・過少申告者の休業損害(逸失利益にも当てはまりますが)の問題は、純粋に所得立証の問題と捉えれば足りる話で、わざわざ「クリーンハンズの原則」などというものを被害者・加害者間の問題として持ち出す必要も必然性もありません。

ただ、被害者としても、申告外所得の主張をするということはそれなりにリスクがあります(その準備書面をもって、相手方が管轄の税務署に駆け込まないとも限らないし、それを防ぐ手立てもない上、それを不当だと主張する根拠もない。)。

そういう意味で、被害者の側も申告外所得の主張については、慎重にならざるを得ないということになります。

ちなみに、「無申告、過少申告の場合でも、事故後に修正申告までしていれば立証上は有利になる」という議論もありますが、こちらは少なくとも休業損害の議論に関する限り、どれほどの実益があるのか疑問です。

増差所得について課税がなされるだけでなく、無申告加算税、過少申告加算税として相応の額の課税が生じる上、税務署から以後の申告についてマークされることになるわけですから、多くのケースで問題となる程度の休業損害の増額を狙ってやるインセンティブが働きにくいように思われます。

なお、今回の研修会で、パネリストとして登壇いただいた経験豊かな先生の処理事例で、「兼業主婦について、主婦稼働部分について賃金センサスを割合的に用い、これに家事労働以外の稼働収入を合算した額を基礎とした休業損害の主張が認められた事例」の報告があり、非常に有益かつ刺激的な情報でした。

一般には、兼業主婦の場合、「家庭外での稼働収入」(パート収入等)と「家事労働収入」(通常、女子の賃金センサスで算定)とを比較し、より高い方を休業損害や逸失利益算定の基礎額として用いるという取扱いが一般的です(そして、多くの場合、後者の家事労働収入としての金額の方が高くなるため、賃金センサスによる休業損害の算定が多くなり、その分「兼業主婦の休業損害算定」についてはフィクションの色合いが濃くなります。)。

地裁レベルの判決であるとしても、兼業主婦について上記のような算定が認められるということになると、より実態に即した「兼業主婦の休業損害」の算定、賠償が認められることになるのではないかと期待されます。

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神戸の弁護士・中小企業診断士の中村真(なかむらまこと)は交通事故案件、中小企業支援、事業再生・事業承継、税務争訟、相続案件等に注力しています。

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