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大規模怪異発生日記28


暗夜迷宮日記スクショ
第二十八更新分
20230603~20230607
テキストは以下

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主な登場人物


左から
万禮ばんらい久幸ひさゆき、ヒー、始祖:かど凌司りゅうしのバンパイアにおける直系始祖。
かど凌司りゅうし、りゅーし:万禮ばんらい久幸ひさゆきのバンパイアにおける直系係累。
土果とか久幸ひさゆき凌司りゅうし二人の伴侶犬。
恵玄よしはる:凌司の後天性加護精霊。トゥから贈られたカーボナードの精霊。


上段左から
ラン:久幸ひさゆきの友人。凌司りゅうしの恩人。
トゥ、師匠:久幸ひさゆきの友人。凌司りゅうしの魔術の師。
泰市たいち:ランとトゥの伴侶猫。
下段左からサンタ:ねこのぬいぐるみだがトゥの魔法で限定的に猫になる。
スュクセ、すゅー:トゥの特別な遣い魔。個性と向学心がある。

本編

20230603

始祖の声で聞き慣れた放送禁止用語が
私の口から溢れ出す程に……辛い。
刻一刻と増幅される知覚。
木造長屋にでも居るかのような
喧噪と生活臭と振動。
なのに舞台に居るかのような眩しさ。
ストレスが引き起こす絶不調。
食欲は完全に無くなり
点滴に活動が支えられている。
一日を争う早さで現行クラスへ編入してくださった
壱にのまえ学園長には感謝しかない。
28名の級友の内の3名が私と同じ状態で
のたうち回りながらも必死で
師の教えに喰らい付いていた。
精神感応念話のお蔭で
視覚と聴覚は同時に物理的に塞ぐ事ができるが、
嗅覚は息を止める訳にゆかず
複雑怪奇な複合臭に何度発狂し掛けたか。
埃、煙草の煙、煙草の吸い殻、ゴム、
アスファルト、排泄物、口臭、洗剤、
体臭、排気ガス、不織布、有機溶剤、
薬品、正体不明……
花、土、草、雨……
好きな香りを探し出して
その香りで嗅覚を満たすという宿題を
手始めに与えられた。
12時間きっちり始祖の結界による
休憩が与えられている事には
魂から感謝した。

20230604

やった。老眼と近視と不同視が治った。
昨夜読めなかったものが読める喜び。
手許が見えなくなってから、
手先が不器用になり
修繕できずに仕舞い込んでいた
愛用の私服を引っ張り出して修繕した。
若い頃の視力は良かったので、
見える事への耐性はある。
だからだろうか? 
同時に何の訓練もせずに
起床時なら視覚の抑制はできるようになっていた。
就寝時は午睡チャンスを待たねば分からないが。
修繕に没頭し始めたら聴覚と嗅覚も大人しくなった。
最終的には始祖の結界外で
眠れるようにならねばならないから、
没頭逃避では問題解決にはならないのだが、
できる事が増えたのは素直に嬉しい。

20230605

昨夜、裁縫していた時、
数秒で消えたから助かったが
強烈な欲情が臍下から噴出して魂消た。
あんな本能的な欲情は
中学生高校生の頃以来だろう。
何が原因だったのか全く分からない。
作業に没頭して
嗅覚を抑制できていたように感じていたが
何かの匂いが混じって流れてきていたのだろうか。
異界や舞台で同じ事が起きない事を祈る。

今日から師匠の世界では休暇月だそうで
ランさんと師匠と泰市さんがいらした。
呪力強化の魔鳥肉と
自律神経強化の薬湯を下さった。
有り難い。
二階の西の客間を使ってもらう。
師匠の纏う空気がとても清浄で
邸内に居るだけで洗われるような感覚があり、
神社や仏閣のような空気に
知覚が柔らかくなっている。
不思議だ。
暫く逗留してもらえると良いなぁ。


20230606

ランさんの複雑そうな表情で、
始祖と行動を共にする時は常に
始祖に肩や襟首を掴まれている事に気付いた。
私「もしかして私は外で君に面倒を掛けてる?」
始祖「ちっとだけな。
足を踏み外したりつまずいたりが増えてる。
多分触覚と視界が噛み合わねぇんだろ。
気にすんな」
私「成る程、ありがとう」
そうだ。
確かに初めて遠近両用眼鏡を掛けた
あの時のような感覚はある。
邸の階段でもそうなのだから
歩き慣れない場所ではもっとなのだろう。
相変わらず始祖の結界外での記憶は
土果の散歩ですら残っていない。
土果のあの可愛らしい嬉しそうな表情を
見逃している気分で実に悔しい。
この日々の記憶、
必ず返してもらうからな、異界め。

20230607

ラン「外の匂いが届かない午前の間に、
嗅覚を満たされても
構わない匂いを整理したらどうかな? 
具体的な程イメージし易くて
抽出し易くなると思うよ。
花なら何の花とか、
洗剤なら何の洗剤とか、
スパイスならどれとか、
全部視覚情報と結び付けて覚えるの」
以前、長のストレスから嗅覚を失う
辛い経験をしたというランさんが、
宿題に悪戦苦闘していた私に提案してくださった。
成る程! 
洗剤や柔軟剤や香水の中でも
耐えられるものと
耐えられないものとがある事が
判明していたのだから、
もっと突き詰めれば良いのだ。
最も身近で気に入っているのは
己の体に使っている物。
以前は香りにあまり拘りが無かったから、
この邸に来て始祖が置いていた物を
始祖の許可を得て使い続けている。
己の髪の匂いを嗅いでみる。
同じ物を使っている始祖の髪に手を伸ばし、
髪の匂いを嗅ぎ、
次いで私の鼻に届いている匂いを
詳つまびらかにしようと
始祖のうなじに鼻を近付けた途端に、
始祖に襟を掴まれてヘッドバット頭突きを喰らった。
私「グアッ……!」
始祖「凌司テメェ! 
こんだけ(一緒に)居て俺の匂いが分からねぇのか!」
私「痛ててて……いや、あの、えぇと、
きちんと確認しておこうと思って……
気に障ったなら済まない」
始祖「ッ……混じっても(匂いを)拾えるか試してみろよ。
土果、カムーおいで
私「ああ、土果と揃うと最強だね」
始祖「俺じゃ足りねぇってか!」
私「え、いや……え、怒る処?」
師匠「ラン、これが煽り炒めというものなのでは……?」
ラン「シーッ、きっと違うと思うよ。
久幸さん、凌司さん、ラン達、地下使わせてもらうね」
師匠とランさんが顔を真っ赤にして居間を出て行った。
どうやら私はナニカやらかしてしまったらしい。


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