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転生したら「女神さま」のパシりだった件 その3

3.セルフ・コード


最初は、満月と財布だった。

満月の光りに財布をかざして振ると収入が増えるという話を、その頃買ったスピリチュアル雑誌で読んだ。

満月でなくても、イライラすると私は夜な夜な出掛けて、月光の下で財布を振っていたらしい。

我が事ながら、アホだ。


その頃、夫の月収がかなり減り、私は私で職場の対人関係ストレスから鬱傾向になっていた。心が弱っている時に、金欠は鈍い刃物のように効く。

そこから私はスピリチュアルにハマり、スピ系雑誌に宣伝されていた「女神さま」の講演会に行き、さらに深くハマってしまったらしい。講演会だけでなく、女神さまの提唱する「収入アップ!金運メソッド」

とか

「総合的な運気が上がる!運命を変えるメソッド」

とか、そうした物にちょこちょこお金を払い、仕事もしないで付いて回り、やがて女神さまである姫草の引っ越しにまで付いてきてしまった。

脳内をかき回しても、夫の叱責の記憶はなかった。不自由な生活をさせていると負い目があったからだろう。海ざくろ島に移ってからは、様子を見ていたそうだ。


一言で言って、


前の私、バカじゃね?


それ以外の言葉が出ない。

そうして、知り合いもろくにいない、見知らぬ土地で、適応障害を起こしかけていたら、どうやら、今の私が爆誕したようだ。

深く思う。

過労死や事故死して、好きな乙女ゲームの世界に転生し、姉妹で、あるいは知り合いと、イケてる王子様を奪い合ったり、国母となったり、ならなかったり、骨肉の争いをしたり、スローライフをしたり、現代社会での知識をチートして幸せになる、そんなストーリーなら、どんだけ気が楽か。

つまり、私はスピリチュアルにハマっても何ら救いを得られなかったという事だ。

その上、余計にメンがヘラってしまった。

姫草は、私には弟子の才能はないと早々に見抜いた。

搾取は出来る。

あの手この手でグッズを大人買いさせようとしたり同じメソッドを何回も買わせようとしたりした。そして、まだ離婚はしていない。これは美味しい。私から搾取出来なくても、私を通して夫から回収すればいい。

豚は太らせてから食え。


逆に、私が離婚されたり、私を島から連れ出して東京に帰られると困る。

夫と密談の末に、私はしばらく島に残る事にした。

今の島には人手も必要だ。


観光を含めて多くの人を島に呼ぶと公言し、定期的にスピリチュアル・イベントとして、前述の、地獄のライブを行っている。とっくの昔に閉館し、打ち捨てられた映画館を修理し、そこでいろんなイベントを行う。

信者の中には女神さまに倣って、子連れで移住して来る女性、イベントの時だけやってきてグッズを買ったりヒーリングを受けたりする女性と二分される。


夫と話ながら、私は送られて来た封筒を開けた。

「ありがとう。『例のブツ』、届いたわ」

ブッ、と向こうで夫の吹き出す声がした。

「俺も読んだけど、まあ香ばしい方だね」

明日は久々に、講演会に参加だ。

そして、久しぶりに見る。

「女神さま」こと、姫草 百合。公称年齢三十八歳。都内の理系大学中退、独学で心理学を学び、そこから神道と仏教に目覚め、宗派関係ないとカトリックの教えも学び、日本とヨーロッパを何回も行き来して、世のため悩める女性のために覚醒したスーパー・スピリチュアルでヒーラー。


え?封筒の中身は何だって?


教えてあげないよ、ジャン♪


続く


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