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タイ国王崩御と王位継承等に関わる今後の見通し

(本稿は諸事情を鑑み、一部を一時的に公開している。)

※ 初公開は10月14日であるが、王位継承制度の法的根拠の章については、10月21日に別途まとめたタイ情勢アップデート情報と統合し、10月25日に更新した。


2016年10月13日 15時52分、タイのプミポン国王が崩御された。王位はワチラーロンコーン皇太子が継承すると報じられている。まだ不明確な点も多いが、これまでの情報をもとに、王位継承等に関わる今後の見通しを以下の通りまとめた。


1.王位継承制度の法的根拠

王室継承権の順位等、具体的な内容を定めているのは、1924年制定の王室典範である。

この王室典範を援用する形で、憲法が最上位規定として定められているが、現在、軍政下にあり、憲法は停止中である。

直近、有効であった憲法は2007年憲法であるが、2014年5月22日のクーデターにより停止された。但し、国王について定められた第2条だけは停止の対象から除外するとなっており、この第2章に1924年制定の王室典範を援用した王位継承を定めた条文がある。

なお、2014年5月22日のクーデター後に制定された暫定憲法は、民政移管への国家運営の大枠を定めたもので、王位継承に関する条文は無い。

タイ政府(軍政)が現在進めている、民生移管の大前提となる新憲法案は、今年8月7日の国民投票で賛成多数で信認を受けているが、制定・発布の前に、国王による承認手続きが必要で、宙に浮いた状態にある。

新憲法案は、10月9日の国王の容体不安定の報を受け、最終案が10月11日付でようやく政府に提出されると報道されている。規定により30日以内での国王承認が必須であるが、国王不在のタイミングを図ったものともとれる。なお、国王不在時の国王代行として執政を置くことができるが、国王崩御翌日の10月14日に執政役就任したプレム枢密院議長が事実上の承認を行うものと考えらえる。

尚、ウィサヌ副首相は10月14日の夜、13日に崩御された故プミポン国王の後継問題について「故国王が1972年12月28日に後継者を指名しており、誰が新王となるのか問うまでもない」と述べ、故国王の遺志に沿って、ワチラーロンコーン皇太子が後継国王となると説明している。

 同副首相は、新国王の選出過程について「憲法上、国王が空席で、既に後継者がいる場合は内閣から国民立法議会(NLA; National Legislative Assembly)の議長にその旨を報告しなければならず、その後、議会が承認のための会合を開くことになる」と説明。

 ワチラーロンコーン皇太子は、新国王となるにあたり、暫くの間の国民と伴に喪に服す時間をもつことを望んでいる(1年間継続する予定の葬儀が終了してからの即位となる見通し)と伝えられているが、国民立法議会(NLA)における承認手続が間もなく開始されると、当該承認により、皇太子が新国王と「宣言」される見通し。但し、国王の火葬(Cremation)は約1年後に実施されるため、新国王の「戴冠(Coronation)」は国王の火葬後暫く経過してからとなる。

 ウィサヌ副首相によると、今年の8月7日の国民投票で承認された新憲法への国王署名は、ワチラーロンコーン皇太子ではなく、プレム枢密院議長が摂政として代行することになると説明。理由は、同皇太子が新国王として「宣言」され「戴冠」するまでの期間は、憲法と王室典範、及び王室の伝統に従う必要があり、それによれば故国王の葬儀を執り行うこと以外のことは出来ないため。なお、プレム氏の摂政就任に伴い、枢密院議長はタニン元首相が暫定的に務めることになった。

 また、タイ国外のおける数多くの不正確な報道に対して、タイ外務省は不快感を表明している。


2.次期国王候補として「皇太子」を定めた法的根拠

根拠規定の順番は、以下の通り。

①2007年憲法第2章第22条(第23条の適用下において適用される旨の規定)
第23条の適用下において、王位の継承は仏歴2467年(西暦1924年)王室典範の王位継承に係る規定に従う」

→ ② 2007年憲法第2章第23条(王位が空位時の規定)
王位が空位になり、国王が王室典範に基づき王位継承者を任命していた場合、内閣は国会議長に通知し、国会議長は了承を得るために国会を召集する。国会議長は王位継承者に国王への即位を要請し、国民に公示する」

→ ③ 2007年憲法第2章第22条(王室典範に従う旨の規定)
「第23条の適用下において、王位の継承は仏歴2467年(西暦1924年)王室典範の王位継承に係る規定に従う

→ ④ 王室典範第5条(国王が皇太子指名権を持つことの規定)
国王は、王室メンバーのうちの誰かを皇太子として指名する権限を有する

→ ⑤ 王室典範第6条(皇太子が次期国王となることの規定)
「国王が王室の誰かを皇太子として指名し、王室のメンバー、職員、王国のすべての人々に宣言するとき、その王子は、疑いのない皇太子とみなされる。然るべき時が来れば、皇太子は、王室の命令により宣言されることに従って、先代の国王を継承することになる」

2016年10月14日現在、まさに、王位が空位となった第23条適用下(①)にあり、生前に国王が王位継承者として指名した(②③④⑤)ワチラーロンコーン皇太子が次期国王になるべく明確に規定されている。

これらの規定に基づいて、昨日(10/13)夕方、特別招集された閣議でも、ワチラーロンコーン皇太子が次期国王となることが閣議決定された。

しかし、皇太子が「暫くは国民とともに喪に服す時間が欲しい」との理由により、まだ「然るべき時」が来ていないという判断の下、皇太子の次期国王としての戴冠時期は決まっていない。


3.皇太子が指名されていなかった場合の王位継承権者

皇太子が指名されていない場合の王位継承についても同憲法と王室典範に規定されている。

根拠規定の順番は、以下の通り。

① 2007年憲法第2章第23条(王位が空位時の規定)
「王位が空位になり、国王が王位継承者を任命していなかった場合、枢密院は第22条に基づき、王位継承者名を内閣に提出し、内閣は承認を求めるために国会に提出する。その場合、王女の名を提出することもできる」

→ ② 2007年憲法第2章第22条(王室典範に従う旨の規定)
「第23条の適用下において、王位の継承は仏歴2467年(西暦1924年)王室典範の王位継承に係る規定に従う

→ ③ 王室典範第9条(王位継承資格のある王室メンバーの順位の詳細規定)
王位を継承し得るのは国王と血縁関係のある王室メンバーのみとされ、1位~13位まで規定している。なお、1位~3位までは、1位「国王と王妃の長男」、2位「その長男(国王の直系の孫)」、3位「国王と王妃の次男」となっている。

故プミポン国王の下では、シリキット王妃との長男で唯一の男子のワチラーロンコーン皇太子(1952年7月28日生まれ、64歳)がそれにあたる。

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