総合商社の片隅から(14):商社マンの金銭感覚

固い話題が続いてしまったので、今回は商社マンの「金銭感覚」の話をしてみたい。

ネット検索すると、商社マンは高給取りとの印象からか、金銭感覚のズレを揶揄したり、どうしたら商社マン(男性社員)と結婚できるかといった婚活中の女性を対象にしていると思われる記事がヒットする。

私個人の感覚では、日本のサラリーマンの給与水準からすれば高い方とは思うものの、実質的な可処分所得は決して高くなく(累進課税の為)、年収2000万円相当以上が当たり前の他のグローバル企業の給与水準との比較すると、いまや半分になったという感がある。私の駐在したタイでは、貧富の差が大きく、相続税がないというお国柄もあって、部下が圧倒的にお金持ちだったというケースは珍しくない。例えば、タイ人の部下や同僚の夏休みの過ごし方は家族全員でファーストクラスで欧州旅行に行って来たといった感じである。商社マンはそこまでの金持ちではなく、グローバルスタンダードでは、やはりミドルクラスだ。経済的に恵まれていないということは決してないとは思うものの、世間で思われているよりも堅実な人が多く、そういう意味では、総合商社もつまらないフツーの会社になってしまった。(私個人は、それで良いと思ってはいるが…)

ただ、私が入社した四半世紀前は、日本経済がジャパン・アズ・ナンバーワンと警戒された頃の余勢もあったためだろうが、ぶっ飛んでいる人の話を多く聞いた。例えば、

  • 生活費を全て賭けゴルフで稼ぐ人(部下からも容赦なく巻き上げる)

  • 結果、給与振り込み口座の残高など見たことが無い!と豪語する人

  • 外貨運用の相場勘を磨くといって個人でも数億円を運用し、毎日、今日は〇百万損した/儲けたとか言う人(FXが始まる前の頃)

  • 負けが嵩んで家を売る人

  • 夜の店を毎日のように梯子し、年数千万円使う人

  • 部署の稼ぎを現金化して札束を机の上に山積みにし、部下を集めてこれは「俺の分」といって半分を分捕って部下を鼓舞する人

上記は、先輩から聞かされた話なので真偽の程は不明だが、流石に文字に出来ないもっと酷い話もあるので、この程度の話は本当であったと思う。万事がこんな調子で、当時の商社マンの金銭感覚が世間とズレていると言われば、ズレていない訳がない。

商社の常識は世間の非常識

と言われた所以ゆけんである。

但し、こうなるのには理由わけがある。それは、

  • 儲けている限り交際費は全て必要経費扱い(≒使いたい放題)だった

  • 結果、会社の経費と個人の給与の区別が曖昧(だった)

  • 個人立替が多く分離に手間がかかる(実質、困難)

  • 分離困難な為、接待など公私の境が曖昧な出費が増える

  • 職場で取り扱う金額の桁が異なり、経費と思うと金銭感覚がマヒ

  • 出張は顧客対応が基本で出張手当から経費を充当し、公私が混ざる

  • 経費に私的な出費も混ぜ込むことが可能なので公私混同が常習化

といった事情だ(もちろん、今は全く事情が異なります、念の為)。

特に、夜遊びについては、顧客をもてなすのが目的だったはずが、自分自身も楽しんでしまい(その方が顧客も喜ぶので)、接待でなくても個人でも通うようになるというパターンである。夜遊びのいろいろ呼び方はあるようだが「クラブ活動」と呼んでいる先輩もいた。だいたいは、貯金が枯渇するか、カードローンの借入限度に届いたあたりまで行ってようやく止まるが、運が良ければ、そうなる前に転勤になる(だいたい2、3年で異動するので)。既婚者であれば、離婚に繋がることも多く、1度や2度は、経済的にも家庭的にも破滅寸前(か本当に破綻リセット)までいくのが、何事もとことん突き詰めたい商社マンの特徴と言えば特徴かもしれない。

なお、夜遊びにおいて自分も本気で楽しめるかという点は商社マン(男性の営業職)として非常に重要な資質である。楽しんでいるかどうかは目を見ればバレてしまうので、部下の資質を見極める為に夜遊びの場が頻繁に使われる。ある先輩は、

そこで目が笑っていない奴は、即アウトだ

と真顔で言っていた。顧客との関係性をしっかり築けない奴という評価をされる訳だ。

私が赴任したタイという国は、そんな接待現場のメッカのような場所だった。どんな世界が繰り広げられるのかは読者の想像にお任せしたいが、決して文字で出来ないレベルだったとだけ申し上げたい。

とはいえ、そんなタイに女性管理職が駐在員として赴任した。次回は、そこでいったい何が起きたのか、プライバシーに触れない範囲で、個人的な経験談を書いてみたい。


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