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【タイ】カンチャナブリーにおける国境貿易の現状

日本人にとって、カンチャナブリー(Kanchanaburi, จังหวัดกาญจนบุรี)と言えば、映画「戦場にかける橋」の舞台として有名なクウェー川鉄橋であり、第二次大戦中に多くの現地労働者と連合国捕虜の生命と引き換えに驚異的なスピードで敷設した泰緬鉄道のルートであり、悲劇的な歴史に正面から向き合い、鎮魂の為に一度は訪れるべき場所である。

本稿は、昨今、飛躍的に伸びてきているタイの国境貿易のうち、比較的に日本人に馴染みのあるカンチャナブリーを取り上げ、ミャンマーとの国境貿易の動向について解説したい。

1.カンチャナブリーの位置・特徴

カンチャナブリー県は、タイ西部に位置し、ミャンマーと国境を接している。県北部には広い範囲で自然が残っており、世界遺産に登録されているトゥンヤイ・ナレースワン野生生物保護区をはじめ7つの自然公園がある。ウォーター・ツーリズム(ボートでの川下り、魚釣り、川岸での象との水浴び体験等)が楽しめ、旧日本軍が開発した温泉地に加え、ロシア人を主なターゲットとして新規に開発された温泉施設もある。外国人に人気の観光地ではあるが、当地を訪れる観光客の70%はタイ人であり、外国人は30%である。タイ人には涼をとるための滝見ツアーが人気である。

観光地としての当地の紹介は本稿の主旨ではないので、これ以上の紹介は割愛するが、カンチャナブリー県の面積は約1万9500 平方キロとタイで3番目に広く、短時間の旅程で見ることができるのは、同県のほんの一部であることは理解しておいたほうが良いだろう。

なお、カンチャナブリーとはタイ語で「金の街」という意味だそうである。タイ語では、俗にムアンカーン (เมืองกาญจน์) ないしパークプレーク (ปากแพรก) と呼ばれている。パークプレークとは「北碧」の意味で、漢字表記(中国語表記)に用いられる。

カンチャナブリー県の経済状況を概観すると、人口は約84 万人、1人当たり県生産高(GPP:gross provincial product)は105,701バーツ(3,440米ドル、2013 年)で、全国平均の193,395バーツ(6,293米ドル)の2/3の水準に留まる。また、バンコク都平均の466,844バーツ(15,192米ドル)との経済落差は大きい。

同県の産業別のGPP比率(2014年)は、農業25.2%、製造業21.5%、商業17.8%、観光11.2%、その他24.3%となっている。タイ全体のGDPに占める農林漁業の割合が約10%であることを勘案すると、同県は農業が盛んな地域であるといえる。

カンチャナブリー県産のトウモロコシ、ベビーコーン、アスパラガス、有機野菜・果実などは多くがタイ産品として輸出され、また県内にある6つの製糖工場から生産される砂糖は、タイ全体の生産額の約20%、輸出の約10%を占めている。

2.カンチャナブリー県の国境貿易

前置きが長くなったが、本稿の趣旨である、カンチャナブリー県を経由するタイ・ミャンマー間の国境貿易を細かく見ていく。まず、同県を経由する国境貿易は、県北西のサンクラブリー及び県西南部にあるプーナムロンの2ヶ所の税関が管轄している。また、ミャンマーからの天然ガスのパイプラインが通っており、合計3つのチャネルがあるのが特徴である。

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