Life is Fishing (第三章 往路⑦)

漁港の建物付近のトイレから車に戻ってくると、多くの釣り船が停泊している運河が見えた。すぐ近くにおおさと丸と書かれた釣り船がある。
「これ、明日乗るおおさと丸じゃない?」
僕が指差しながらウッシーに言った。
「本当ですね!結構大きいな。トイレもありますね。」
全長15メートルくらいの船で、後部キャビンのところにトイレが付いている。運河内なら良いけど、外海に出たらトイレで用を足せるのか。
前に船釣りをした時は、トイレを使わなかった。まあ、今回も使わないで済むようにしよう。トイレの単語に反応して、変なことを考えてしまった。
「明日の釣りが楽しみだね。たくさんの釣り人が乗ってくるのかな?」
「でしょうね、たくさん釣れると良いですね!」
ウッシーが目を輝かせながら応えた。
それから僕とウッシーは車に戻ってエンジンをスタートさせた。車内は熱気が充満している。
「30分も経っていないのに、車の中めちゃくちゃ暑くなってますね。」
「これなら外の方がマシだよ。冷房マックスにして、ちょっと外で話そう。」
そう言って僕らは車を降りた。
「チェックインの時間まで、まだ1時間以上あるね。ウッシーどこか近くに時間潰せるところないかな?」
ウッシーはスマホを見ながら、
「近くに大原海水浴場というのがあるみたいです。さすがに海水浴客はいないと思いますが、時間は潰せるかも知れないです。」
「よし!そこ行ってみよう。」
僕はそう言いながら運転席に乗り込んだ。車内はまだ熱気が籠もっていたが、冷たい風もガンガン吹き出されていたのでこのまま出発する事にした。

大原海水浴場へは10分足らずで着いた。海水浴場の駐車場には、疎らに車が停められていた。僕らは車を降りると、海水浴場の方へ歩いていった。砂浜が地面を蹴る足の力を吸収して歩きにくい。数年ぶりに味わうこの感触は、不快ではなく心地よさを感じる。
「この砂浜を踏みしめる感触、心地良いね。」
「はい!いつ以来だったか、自分も憶えてないくらいで懐かしいですよ。」
ウッシーも砂浜の砂の上を歩くのは随分と久しぶりのようだ。
「あ、サーフィンしている人がいますね!」
「本当だ。外房は波が高いからサーファーにも人気が高いのだろうね。」
僕はそう言ってみたが、サーファーは数える程しかいなかった。周囲を見回すと、波打ち際に貝がらを拾っている家族連れと、砂浜にビニールシートを敷いて日焼けをしている青年がいるだけだった。当然海水浴客はいない。
「なんか、ここも人少ないですよね。」
「そうだね、駐車場にはもう少し車があった気がするけど、どこ行ったんだろう?」
僕は車を駐車場に停める時、周りの車の数を見ていた。少なくとも20台近くはあったはずだ。もう少し人手があっても良いはずなのに。
「駐車場だけ利用して、どこか他行ったんですよ、きっと。」
まあ、そうなんだろうな。暫く砂浜を歩いて時間を潰す。繁忙期で鈍った身体を動かすのにも良いだろう。日射しも強いが風も強かったため、流れるほど汗は出なかった。
階段状になっているブロックに腰を下ろす。海鳥が風を受けながら一定の高度で空に留まっている。寄せては返す波もまた、砂浜に引いた一定のラインを保つようにやってくる。
この風景が時間から切り出されたかのように繰り返す感覚を覚えた。

「今村さん、そろそろ行きませんか?」
声を掛けられてハッとした。どれほど時間が経っただろうか。波打ち際の家族連れはいなくなっていた。時計をみると、4時15分を指している。結構時間が潰せた。
「お、そろそろいい時間だね。それじゃ宿へ行こうか。」
僕らは海水浴場から駐車場の方へ歩いて行った。

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