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「悟りの境地」がある(その4)


【原因と結果の法則】

 我々が「悟りの境地」に入るための条件がある。それは「原因と結果の法則(縁起の理法 / 因縁の法則 ) 」の認識と体得である。
 世界で起きるすべての現象、人生で経験することは、宇宙法則である【因縁の法則】に忠実に従い、何らかの因縁によって生起している。自力と自己原因によって存在できるものは何ひとつない。すべての物事には100%、必ず【原因と結果の関係】がある。釈尊は【因縁の法則(縁起の理法)】について、次のように述べている。
「熱意を込めて思惟する私に、万物の法則(仏法)が明らかになったとき、私の疑惑と迷いはすべて消え去り、智慧が生じた。【縁起の理法】を見つけたからである。ーーーーこれ在ることに縁って、かれ在る。これ生じるに縁って、かれ生じる。これ無きことによって、かれ無い。これ滅するに縁って、かれ滅する」(南伝大蔵経)
 人間の幸せは、どの国でどの両親から生まれるかにかなり影響される。我々が善い国で善い両親から生まれて、幸福な人生を送ることができるのは、前世で善いことをして功徳を積んだことの【因果応報】である。善を修め行ない、可能な限り世のため・人のために尽くすことが、功徳を積むことである(忘己利他)。我欲と自己愛だけに限定して生きると、功徳を積むことができない。来世に対する因果応報があり得るから注意すべきである。
 問題は何かというと、現実には我々は世界で起きた現象、自分で経験したことを「真実であり、存在するもの」として絶対視して見ており、「原因と結果の法則、すなわち【因縁】によって生じたものである」とは見ていないことである。その結果、我々の心は【結果】である世界の現象や自分で経験したことに固執 / 執着して、嘆いたり、悩んだりすることがあり得る。

 一例を挙げよう。バブル崩壊以来の日本は『失われた30年』ということで「経済は成長しないし、国民の所得は上がらないし、出生率も下がり、財政赤字が膨大になり、消費税も上がり、国力がどんどん低下している」と言われる。社会問題について他者と話をすると、【嘆きの声】ばかりが聞こえてくる。【結果の世界】だけを見ていると、悲惨な現象があちこちに見えるので、我々は「これはだめだ。あれもだめだ」と嘆くことになり得る。
 彼らは因縁生起の【因果関係】を見ておらず、一面的な【結果】だけを見て嘆いているのだ。しかし、【結果の世界】を見ているだけでは、決して解決策は出て来ない。世界で起きる現象や自分で経験した物事はすべて【因果の法則】に従って起きているのだから、問題の【原因】と【結果】の両方をしっかりと見定めたならば、どういう事柄が原因となって、悲惨な結果が生じたか」という全体の姿がはっきりと見える。 
 それが見えると、我々は「自分を悩ませている問題は、現実として現象しているけれども、自分の心のあり方が世界に映し出されたものだろう」という認識に到達して、達観することができる。そうすると人間の心は、解放されて浄められて、悩みは消え去ることになる。
 それが釈尊が述べた「熱意を込めて思惟する私に、万物の法則(仏法) が明らかになったとき、私の疑惑と迷いはすべて消え去り、智慧が生じた。【縁起の理法】を見つけたからである」という言葉である。私はそれが「悟りの境地」であり、「不死なる境地」だと思う。
 「日本の失われた30年」を始めとして、我々が直面する問題の解決方法は、プラス思考によって【因縁の法則】を積極的に活用することである。賢い人間として、構想を練って、問題解決のための【原因づくり】を行い、強い想念を持って実行に移せばよいのだ(ビジョン・ポリシー・アクション)。そうすれば【因果の法則】によって、善い結果が生じるだろう。我々は【善因善果】を作り出すための【原因づくり】を行うことによって、「素晴らしい幸ある理想の世界」を創ることができるのである。
 ギリシャの哲学者プラトンは著書『ティマイオス』の中で「(万物の第一原因である) 一位の神はすべてが善きものであり、悪しきものが可能な限り、何一つないことを欲したのである」と述べている。これが【宇宙生成の原理】である。人類が【悪因悪果】となる【原因】を作り出す作業を止めてくれさえすれば、そうなるように宇宙は設計されているのである。

(哲学者 水山昭雄)


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