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あなたの日本語はまちがっていますよ 6

6、「させていただく」

「あなたの日本語は、まちがっていますよ!」と言いながら、それ自身が間違った日本語を広めているWebページが多くあるので、きちんと指摘して訂正しておきたいと思います。

「あなたの日本語は間違っていますよ」「その敬語の使い方は違いますよ」「社会人として恥ずかしいですよ」と啓蒙けいもう?しているほどんどのページで、「『させていただく』はまちがい」としている。果たして本当か?

◾️「させていただく」には、正しい使い方である場合と、間違った使い方である場合とある。

「させていただく」には、正しい使い方である場合と、間違った使い方である場合とある、というのが正解である。

「あなたの日本語は間違っていますよ」啓蒙ページのほとんどは、自分自身が正しい日本語、正しい敬語の使い方を知らないまま、「これでPVページビューが稼げるぞ」とばかり参入している、日本語素人の人ばかりである。

だから、自分の知っている範囲、自分の理解している範囲でのみ「正しい」とし、多くは他のページからの Copy&Paste コピペで、まるで自分の考えでページを作ったような顔をしているだけだ。

◾️そもそも「させていただく」は敬語ではない。

そもそも「させていただく」は、敬語でない。「いただく(頂く)」の部分が謙譲けんじょうの敬語であって、「させて」は単に「相手のご好意によって」という意味が添加されているだけである。それがあたかも「させて」の部分に敬意があるように、多くは誤解されているから、「させていただく」をまるで高い敬意を表すかのように何度も使われたり、またそれについての解説をしているページも、「『させていただく』は過剰な敬語だ」などと、頓珍漢とんちんかんな解説をするのだ。

◾️正しい「させていただく」

「させていただく」は、「させてもらう」の謙譲語である。だからそもそも「させてもらう」は敬語ではないし、「させてもらう」という意味がない場合には使えない。「させてもらう」に敬意があると勘違いしたところから、全ては始まっているのだろう。

「させてもらう(いただく)」は、「相手の好意に依って」あるいは「相手の許可をもらって」「相手に迷惑をかけながら」自分が何かをする場合に使われる語である。

だから例えば、「当店は期間限定で 、◯◯百貨店様に出店させていただいております。」は、誠に正しい「させていただく」である。

「(あなたのパソコンを)使用させていただきます」も語法としては全く正しい。ただ「(パソコンを)お借りします」という表現の方が仰々しくなくて美しい、というのは事実だ。正誤で言うなら「正」で、美醜で言うなら「醜」なのだろう。

「休憩をとらせていただきました」は、経営者、雇用者に対しては、間違った表現だ。休憩時間は労働者のものであり、労働者の権利であり、経営者、雇用者の好意で「もらう(いただく)」ものではないからである。「休憩をとりました」で十分正しい。

顧客に対しては、お客様にご不便を与えることで私が休憩を取ることができたので「休憩をとらせていただきました」というのは、正しい表現である。

経営者、雇用者に対しても「忙しい時間帯にありがとう」という感謝の気持ちを添えたいというなら、「休憩をとらせていただく」というのは、間違いではない。だから経営者、雇用者に対して直接話しかける場合なら「今から休憩をとらせていただきます」というのは、全く問題ない。対外的に「私は毎日1時間の休憩をとらせていただいております」というのは間違いだ、ということ。

最近「『お休みさせていただきます』『お休みを頂戴ちょうだいします』は間違った敬語だ!」などということを言っている人(ページ)があるが、それは日本語を良く知らない人が言っているだけことである。

「×日から×日まで、お休みさせていただきます/お休みを頂戴します」という店舗の貼り紙は、「お客様にご不便をおかけする」という気持ちの表れだから、全く正しい用法である。

最近の「『お休みさせていただきます』『お休みを頂戴します』は間違った敬語だ!」などということを言っている人(ページ)は、にわか「日本語の先生」であり、「マナー講師」だ。だから「させていただきます」の用法以外にも多く誤用があるに違いないから、そういう人(ページ)は信用しないことである。

◾️文法上の間違い

例えば「休みを取ら『さ』せていただく」「御社にうかがわ『さ』せていただきます」などは、単に文法の間違いである。五段活用動詞には、その未然形に「せる」が接続するのが正しい。(五段以外の活用には「させる」が接続する) だから正しくは「取らせていただく」「伺わせていただきます」である。

単純に「させていただくは間違いだ!」と言っている(日本語をよく理解していない)人たちは、こういう文法上の誤りも、指摘しない。できない。

「せる・させる」の接続は、「れる・られる」の接続と同じ。だから「ら抜き言葉」の誤用がわからない人は、同じく「取らさせていただく」の誤用もわからない)

◾️慣用かんよう的な間違い

「相手の好意に依って」「相手の許可をもらって」「相手に迷惑をかけながら」という意味を含んでいても、何度も重ねて使用するのは、言葉として美しくないから、やめた方が良い。

×「…この後、会議室をお借りさせていただき、ご提案を見させていただいて、お返事をさせていただきます」

「…この後、「…この後、会議室をお借りしご提案を見させていただいて、お返事申し上げます」

「…この後、会議室をお借りしご提案を拝見してお返事申し上げます」

◾️同意の重なり

頂戴ちょうだいさせていただく」は、「頂戴」と「させて」、「頂戴」と「いただく」が重なっているので、よくない表現。

×「頂戴させていただく」

◾️問題点は

重大な問題は、「あなたの日本語はまちがっていますよ!」と指摘、啓蒙けいもう?している人たちが、実は自分自身が日本語をよく理解していないことである。

自分が日本語を正しく理解しておらず、自分の浅い知識でのみ語るから、どんどん誤った日本語が広まっていくのである。

浅い知識の人が二分法ダイコトミー的に「これは正しい」「これは間違い」としてしまうので、日本語を学ぼうとする人も二分法なら易しいから、まんまと騙されてしまう訳である。

言語というのは、大変複雑で、例外も慣用的表現も多い。だから本当はそんなに簡単に「これは正しい」「これは間違い」などとは、言い切れない。そこに言語の奥深さがある。

だからその成立の背景を無視した二分法的な「これは間違った日本語ですよ」などと言い切ってしまう説には、絶対に近寄らない方が良いでしょう。後で恥をかくのは自分ですから。

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「あなたの日本語は、まちがっていますよ!」と言いながら自分こそが間違った日本語を垂れ流している人達は、もちろんそのことに全く気付いていない。だからいくら「あなたのその理解こそ間違っていますよ」と指摘したところで、蛙の面に水、決して直しはしないし、「あれ、もしかしたら間違って理解しているのかなあ」という反省もない。そしてそれに騙された人達が、また間違った日本語を広めている。

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