激情
ファーストアルバムを作るにあたって一曲目にするために書き下ろした歌です。「songwriter」一曲目に収録。
アルバムの始まりはずっと大事にしてきた弾き語りにしたくて、そこからバンドサウンドに繋がるような構成に。
出だしの"携帯電話を捨てた"というフレーズと、構成、なんとなくのメロディだけは出来ていて、一曲目が必要になったので本腰を入れてつくりはじめた感じです。
割と渾身のメロディだったのですがそれに見合うテーマがなかなか見つからずずっと重い腰があがらない、恋愛でもないし、抽象的なことは言いたくないし、結果死ぬこと生きることというちょっと重めのテーマになりました。
経験をもとに創作を混ぜて、一応主語は女の子のつもりですが、どっちでもいいよ。
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激情
携帯電話を捨てた これでもう二度とあの人と
連絡取れなくなっちゃった けど今更どうでもいいことだった
何度も投げて壊した 投げつけた駅のホームに
待ち受けの犬の写真を思って後悔が残った
痛かった 暗い線路 上手に生きられない呪いと
車輪の音 響く警笛 張り詰めた体を終わらす快速東京
下手なんだ もう決めたくせに
すくむ足を つたう涙を 早まる呼吸を
抑える手 強く生きてって
死ぬ気の私をいたわるのもまた私なのか
ホームで泣く私を見る 電車を降りた人々が
笑いたければ笑え 私は生きてるんだ
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"携帯電話を捨てた これでもう二度とあの人と
連絡取れなくなっちゃった けど今更どうでもいいことだった"
「一行目でアッと思わせて読者を引き込む」的なことを織田作之助が何かの作品で書いていて、そこは毎回意識しています。
脈略なく携帯電話を捨てる描写から。
”何度も投げて壊した 投げつけた駅のホームに
待ち受けの犬の写真を思って後悔が残った”
はじめに書いた時は
”携帯電話を捨てた 投げつけた妙正寺川に
割れた画面の破片を小魚の群れがつついた”
こんな世界観でした。ただ描写としては綺麗だけどこんなもんありえないし、なんの歌だかよくわからねえし、と悩んでいた時にふと駅のホームか!!と。その瞬間自分の経験が歌と重なってトントン拍子で完成しました。
だいたいテーマを決めることが一番難しくて、それさえ決まっちゃえばあとは浮かんだ景色を描写したりテーマから連想していけばいいので、まずはテーマを絞り出すことがオススメです。それも大きなテーマじゃなく、駅のホームやらピンサロやらなるべく狭いテーマを、深く。
”痛かった 暗い線路 上手に生きられない呪いと
車輪の音 響く警笛 張り詰めた体を終わらす快速東京”
説明するのも野暮だけど死ぬ前の描写。自分が一番しんどかった時期、思い出す線路って本当に真っ黒だった。なんかずっと心痛えし、なにしてもうまくいかないし、ぼやぼやする視界の割に向かってくる電車だけは鮮明に、鮮烈に見える。サビの描写につなげる為に淡々と描写しました。一番最後にできた箇所。
”下手なんだ もう決めたくせに
すくむ足を つたう涙を 早まる呼吸を
抑える手 強く生きてって
死ぬ気の私をいたわるのもまた私なのか”
決めたことも実行できないで情けないけど、そのくせ油断すると吸い込まれそうになる真っ黒い線路。何にもなくても、自分が自分を生かそうとしていることに気付いてボロボロ泣いたことがあって、そりゃあただの反応?本能?なのかもしれないけどその瞬間確かに少し救われた気がした。
サビの一番盛り上がるところで「〜を、〜を、〜を」と"お"の母音で畳み掛けて、「抑える手、強く生きて」と"え"の母音で落としてます。これはハマった。
”ホームで泣く私を見る 電車を降りた人々が
笑いたければ笑え 私は生きてるんだ”
最後のフレーズは太宰治の灯籠という短編小説の影響。
”覗くなら覗け、私たち親子は、美しいのだ。”
私は生きているんだ
と
私は生きてるんだ
この”い”を入れるか入れないかでずっと迷っていて、生きているの方が日本語的に正しいと思うんですけど、瞬間的に生きていることを実感する時って絶対”生きてる”だと思うので今は”い”は抜いています。
前回解説した「ピンサロ」は自分の経験をそのまま歌にしたけど、「激情」は自分の経験を登場人物に重ねて脚色しました。この方法はよく使います。
性とか生死を書く時に自分の経験をそのまま書くと生々しくなりすぎるので(まあ狙ってやったりもしますが)自己投影を一つ通すことで歌としてのクオリティをあげるみたいな。
今まで作ってきた歌はたくさんあるけど、数少ない100点の歌。これで2:44ですよ!?やったよね!?構成もメロディも歌詞も全部「激情」に当てはまるためだけに生まれてきたような手応えがあった。短い中に物語と人生がギュッと詰まった大好きな歌です。
水野ねじ/激情
Apple Music
https://music.apple.com/jp/album/%E6%BF%80%E6%83%85/1438509301?i=1438509305
Spotify
https://open.spotify.com/track/5OGIMlRazA6tDW7buR5VKt?si=OI4LwZVaRsuPXPUfLweHnA
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