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連載中国史60(最終回) 現代の中国

2013年に国家主席に就任した習近平は、かつてのシルクロードを念頭に置いて、海と陸の双方から西方へのネットワークを拡大する一帯一路政策を推進した。当初は経済協力の見返りとして天然資源を確保するというスタイルであったが、やがてそれはインフラ整備を通じた巨額の借款による対象地域の政治経済的支配へと変貌してゆく。こうした巨大経済圏構想は、米国を軸とした国際経済体制に対して、中国を軸とした新たな経済体制を樹立しようとするもので、2021年には140カ国にも上る国々と何らかの協定文書を取り交わしているという。

2023年の「一帯一路」国際会議に出席した主な首脳(西日本新聞HPより)

こうした広域経済圏の構築は、中国の巨大な人口と高い経済成長に支えられてのものだ。近年の中国では一時期ほどの驚異的な成長率は見られないものの、日本や欧州諸国などと比較すれば、やはり大きな成長を遂げている。そこで得た利益を、更なる投資と軍備拡大へと注ぎ込み、米国と対峙する覇権国家への道を歩んでいるようだ。南沙諸島や尖閣諸島など、領土面での周辺諸国との軋轢も年々激しくなっているように思われる。

東シナ海・南シナ海の中国と周辺諸国の領土問題(全国防衛協会連合会HPより)

2014年、香港で中国からの圧力に抗する民主化運動(通称「雨傘運動」)が盛り上がった。しかし中国政府は一切妥協せず、民主派の排除を推進した。香港返還時になされた一国二制度の約束は事実上の反古となったのである。民主派の政治家は立候補の道さえ閉ざされ、民主派の新聞や雑誌は次々廃刊に追い込まれた。運動を率いた若きリーダーの一人だった周庭氏がカナダに亡命した2023年のニュースは記憶に新しいところである。

台湾の歴代総統(JBpressより)

香港での弾圧を目にして、台湾では中国から距離を置こうとする傾向が強まった。中国寄りの姿勢を見せる国民党に対して、中国と対峙する独自路線を貫こうとする民進党が勢力を強め、2016年と2020年の総統選挙で連勝。蔡英文総統のもとで台湾独自の民主主義政治を模索し、広範な支持を得たが、中国当局も経済的影響力を背景に輸出入の制限等による揺さぶり外交を展開。2024年の総統選挙では頼清徳新総統を擁して民進党が3期連続の勝利を収めたものの、同時に実施された議会選挙では民進党・国民党ともに過半数に届かず、対中国を巡る台湾内でのスタンスのギャップが顕在化した。中国による強権支配に与したくはないが、14億人の巨大市場を持つ大国との経済的紐帯は無視できないというところだろう。台湾ほどではないにせよ、中国と深い関係にある国々や地域は、多かれ少なかれこうしたジレンマに悩まされているように思われる。

2024台湾総統選挙の結果(テレビ朝日ニュースサイトより)
2024台湾立法院選挙の結果(NHKニュースサイトより)

古代から現代に至るまで、中国は日本にとって大きな影響力を持った隣国であり、漢字や中華料理の例を出すまでもなく、文化的にも強い紐帯を持つ兄弟国である。戦争という不幸な過去もあり、隣国ゆえの軋轢も今なお少なくないが、中国と日本が互いに重要なパートナーであることは今後も変わらない。現在、そして未来の両国の関係を考えるにあたって、過去の歴史を改めて振り返ることには大きな意義があるだろう。そして、幸いなことに、両国には先人が残してくれた有形・無形の多くの文化遺産があり、考える材料には事欠かないのである。


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