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月記

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#文章

[月記]23年10月 相補

物理学において、光は電磁波──つまり「波」であり、同時に光子──つまり「粒」でもある。対象が小さければ小さいほど、それらの境界は曖昧になっていく。我々が光について深く知ろうとするとき、波動性という観点と粒子性という観点の両方からアプローチしなければその本質を掴むことはできない。古典力学と量子力学が排他的に対象を記述することで系の完全な記述が得られ、これらの関係は相補性と呼ばれる。 同様に。我々が芸術について深く知ろうとするとき、その端緒として自分の中の芸術を作品という形で表

[月記]23年6月 航路

絵画の表現技法に、アクション・ペインティングという手法がある。筆を振ったりしながら絵具を紙に垂らしたり散らしたりして絵を描くやり方だ。成果物に重きを置くというよりも、絵を描くという行為に対してフォーカスした技法だと言える。それでは、文筆作業におけるアクション・ライティングはどのようなものだろう? たとえば、生成する文字列に対して究極のランダム性を求めるならば、タイプライターを用意してその前に猿を配置しておけば良いだけのことだ。無限の猿定理は無限に長い時間が与えられた場合に『