みずのさんのノオト:口腔内凶器
義歯が割れた。
7月頭のことだった。
正確な分類を知らないので義歯としたが、ブリッジと称される部分が、劣化して割れた。
場所は奥歯の少し手前の上の方。
すでに、その下の部分は処置済みなので、痛みがあったり冷たいものがしみることもない。
物理的に食べ物が詰まる、程度の不自由か。
ただし、問題がある。
歯は当たり前だが硬い。
歯はモース硬度で7らしいが、これは水晶と同等の硬さを意味する。
もちろん、硬さだけでなく脆さもあるので、一概に強弱を判断出来ないが、硬いのは確かだろう。
骨ですらモース硬度が5なので、基本的に、口腔内に存在するものと、食物のように後から入ってくるもの、全てを考慮しても、歯が最も硬いと言って良かろう。
それが割れてギザギザになっているのだ。
最初はそうでもなかったが、亀裂から小片が砕け落ちると、文字通りのギザ歯になる。
これが、舌の上部側面に当たるため、正直、痛い。
どれくらい痛いかと言うと、積極的に喋るのが嫌なレベルといったところか。
幸い、鋭利な刃物というレベルに達していないため、舌が動くたびに切れて口の中が血まみれになる、という状態ではないが、常に尖った陶器の破片が舌に触れるという状態は、かなりのストレスになる。
人間の舌というのが、無意識のうちに結構動いているのだな、とそのストレスが気づかせてくれたが、これを新発見だと喜ぶような余裕はない。
怪我とか傷とか、人間の適応力は高いので、そこに触れぬような動作を無意識のうちに身に付けたりして、それらが完治する前に気にならなくなるものが多い。
しかし、口腔内には、そのギザギザを削るような硬度のものが存在しないため、いつまで経っても、割れた時の状態が保たれており、いつまでも新鮮に痛いのだ。
タイミングが悪いことに、数日後には、人前で喋らなければならないイベントがある。
それなりに日常的な会話が出来る程度まで、喋り方というか舌の置き方のコツは掴んだが、一人で15分だの20分だのを喋り続けられるかどうか分からない。
かと言って、歯医者に行っている余裕もないし、下手に口の中を処置されて、今より喋れなくなると困るので、後回しにすることにした。
そんなこんなで一ヶ月、ギザ歯の違和感は継続しているものの、それなりに慣れてしまい馴染んですらいたが、ついに割れ歯のブリッジが緩んできたので歯医者に駆け込んだ。
さすがに、うがいするだけで『歯らしき部分が外れそうになる』のは看過できないだろう。
現在、当該部分はなにもない。
そのため、片側で食事を噛む必要はあるが、舌に対する常時攻撃がなくなったので、逆に快適ですらある。
加えて、結果的に、食事を少量ずつ、よく噛む、という動作になるため、下手すりゃ痩せられるんじゃないかとすら思っている自分が居る。
困ったものだ。
次回、残っている歯根がどれだけ使えるかどうかを含めて、今後の方針を決めるというが、不摂生という自己責任のしわ寄せなので、素直になるしかない。
歯は大切に。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?