見出し画像

前評判を覆した『神聖円卓領域キャメロット後編』を見てほしい

先日第二部第六章前編がリリースされたスマートフォン向けゲーム『Fate/Grand Order』初の劇場版アニメ『Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット-』の後編が現在上映中です。
前編の出来がお世辞にも良くはなかっただけに、後編が公開されても見に行く事を躊躇っていたのですが、勇気を出して見に行ってみると素晴らしい作品が待っており、幸福指数の高い90分を過ごさせていただきました。
「前編とは全く違う。根本的に別物」と断言出来ます。これを映画館で見ないのは損です。
原作でこの第六章を面白いと思った方なら、円卓の騎士の面々が好きな方なら間違いなく見ておいた方がいい作品なので、簡単にですが、見所を書いておきます。

ベディヴィエールと円卓の騎士に特化した物語

『神聖円卓領域キャメロット』はベディヴィエールの贖罪の物語でした。
アーサー王(アルトリア)のある命令に背いてしまい、その結果アーサー王の存在そのものを歪めてしまう罪を背負ったベディヴィエール。彼がその罪と向き合い、アーサー王から赦しを得る。
それが『神聖円卓領域キャメロット』という物語でした。

ゲームである原作は、その物語を「主人公」というカメラを通じて描き出しました。主人公=ユーザーはベディヴィエールの贖罪の目撃者となるように設計されており、だからこそ目撃者であるユーザー達は、ベディヴィエールの罪、贖罪、そして貫かれた忠義の物語を「美しい」と感じたのではないでしょうか。
そんな『キャメロット』の映像化作品であった前編も、「主人公(=人類最後のマスター)から見た物語」を押さえていたように思うのですが、残念ながら映画は主人公とユーザーは合致しておらず、また合致するように制作されていませんでした。
主人公は主人公で、ユーザーはユーザーでベディヴィエール(とその物語)を見ているので、ゲームでは成立していた構図が成立していなかったかと思います。

しかしながら後編は前編とは異なりました。
後編は主人公(とマシュ)は脇役となり、前編以上にベディヴィエールを中心とした物語を推し進められていました。その結果、ベディヴィエールだけでなく「円卓の騎士達全員の贖罪を描いた物語」となっており、受ける印象も原作よりも重層的なものになっていたように思います。
ガウェイン、トリスタン、モードレッド、アグラヴェイン、ベディヴィエール。
それぞれが抱く罪の意識が原作以上に深く描かれているからこそ、彼らの王への忠義や自身の贖罪のために激突する本作の展開は、いずれも「一つの物語のクライマックス」と言っていいほど面白く、命を賭して押し通ろうとする決意が胸を熱くさせてくれました。
そうしたクライマックスの数々を乗り越えた先にあるベディヴィエールが獅子王と対峙するシーンは、原作を初めて読んだ時と比較しても遜色ないほど美しいシーンだったと思います。
特に獅子王からアーサー王へと変化し、アーサー王としてベディヴィエールの忠義に応える川澄綾子の演技は良かったですね。
反面、「マシュの宝具の名前が発動する」という原作的には「ついに!」な部分は本作では扱いが軽くなってます。
サービス開始時からプレイしている人間にとっては一年越しに判明した要素ですが、本作だけ見るならそこまで重要ではないので、情報の扱い方としては悪くない。むしろその後がしっかりとしているので、大きなマイナスにはならないかなと思います(個人的には納得している箇所)。

専属アニメーター達による凄まじいアクション

個人的には今回の『神聖円卓領域キャメロット後編』の見所はアクションにあると思います。
90分の映像の中に、英霊対英霊の真剣勝負がたくさん詰め込まれているのですが、その全てが映画館の大きなスクリーンで見る価値のあるアクションばかりでした。
冒頭のマシュ対ランスロットから「盾の質量や大きさ、形状を生かして戦うマシュ(殴るだけでなく投げるし、構えると全身が見えなくなる大きな盾だからこそのフェイントもある)」が見られるし、ランスロットも「正統派剣士っぽく見せつつも、アロンダイトの使い手」という部分を見せてくる。
そこだけでも「あっ、前編とは違うぞ」という事がよく分かるのですが、とりわけ「ランスロット対アグラヴェイン」「呪腕と静謐の二人対トリスタン」「ベディヴィエール対ガウェイン」は凄かったですね。

監督によると「各キャラクターごとに専属のアニメーターを配置し、各自好きにやってもらった」とのことですが、「互いに譲れないからこその衝突」を異なったシチュ、異なったアプローチで映像にしていて、見所しかない。

それぞれがもう原画も絵コンテも演出もキマリすぎていて、終始「凄いものを見ている!」という感覚にさせてくれるのですが、これだけ「凄いものしかない」にも関わらず、見ていて全く飽きないのは、各パートを担当したアニメーター達の目指した方向性があまりにも違うからでしょう。
特にランスロット対アグラヴェインはランスロットの登場の仕方からもう意味が分からない凄さだったんですが、「ランスロットに同族扱いされて怒り、炎の中から登場するアグラヴェイン」から先は「何を食べたらこういう映像が作れるのか」と言いたくなるぐらい凄かったです。
正直これだけのために見ても良いと思います。
原作にあるモーションの拾い方も上手ですし、宝具発動の演出の仕方も「これこそこの英霊の象徴!」と感じられるものばかりでしたし!オジマンディアスの宝具発動も最高でしたね。

前編を見た方がいい?

と、『後編』の話をしてきたわけですが、「今作を見る上で前編を見ておく必要があるか」という話をしておきますと、個人的には「どっちでもいいけど、前編は重要度は高くない」になります。
と言いますのも、『前編』は「『後編』でやる話の前振り」だからです。
本作で一番大事な「ベディヴィエールの罪と償い」は『後編』だけで十分すぎるぐらいに描かれていますし、『前編』から引き継がれている部分については『後編』でもフォローされています。
強いて言うならハサン達とトリスタンの因縁や、獅子王が善なる魂の持ち主だけを抽出する作業が『前編』でしか描かれていないことですが、それについてもキャメロット攻略前夜のキャンプシーンで「トリスタンがやったこと」はある程度推察できますし、獅子王についても直接的な描写はないものの「やっていること」という形で提示されているので必要な情報はあらかた出ていたかと思います。
したがって『前編』を見る必要は薄く、『後編』から見ても問題ないかなと思います。
原作をプレイ済みなら尚更『後編』からでいいと思います。

結びに

個人的な感想になりますが、『前編』は「これを見た後に後編を見るのは相当な勇気が必要」と感じた作品でした。
声優の演技に映像が完全に負け、演出面でも面白い点が少なく、シーン一つ一つが間延びしていて、アクションには迫力の欠片もない。
「去年世界全体がドタバタしてた頃に制作された作品だから」という制作側の事情を汲んでも見るに堪えない作品でした。
事前に「ある意味凄い」と聞いていましたが、「ユーザーに一番人気のあるエピソードをこの出来で出してしまうのかぁ」と大層がっかりしたことを覚えています。
そんな『前編』を見ていたせいで『後編』は全く期待してなかったのですが、『後編』は素晴らしい作品になっていて驚かされました。良いものを見せてくれて、ありがとうございました。荒井和人監督。


プリズムの煌めきを広めるためによろしくお願いします。