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鬼塚夏美は皆の夢を一緒に叶えたい『ラブライブ!スーパースター!!』

『ラブライブ!スーパースター!!』2nd Season六話が放送されました。
鬼塚夏美が加入するエピソードの後編となる話でしたが、前話で丸々一話使って「鬼塚夏美はこういうキャラクター」ということを見せていたため、話の主題にスッと入っていきやすく、そして鬼塚夏美の言葉の一つ一つの振れ幅で楽しめる一話だったかなと思います。
またここにきて結構強い「二期生とのつながり」が描かれていたのも大事なところだと思いますが、今回は何と言っても鬼塚夏美のキャラの掘り下げ方が良かったですね。

夢に心を折られた少女

「お金を得るためにLiella!に近づき、動画を撮影し、プロデュースの料金として動画広告の収入を得る」「二期生を一期生と分断し、自分の指揮下に置く」と、前話では最初から仲間に入ることが分かってなければ怒られそうな事をしていた鬼塚夏美ですが、最初から「お金を稼ぐ」ということしか考えていない人間ではありませんでした。
「オリンピックで活躍したい」「研究者になりたい」「モデルになりたい」。
鬼塚夏美にも様々な夢がありました。しかし「運動能力は人並かそれ以下」「勉強もそこまで出来るわけではない」「モデルになるには身長があまりにも足りてない」と現実は彼女の心を折っていきました。
どんなに夢を見ても、現実が夢を否定する。
そんな経験を何度もしてきた鬼塚夏美はいつしか夢を見なくなり、「お金を稼ぐ」という事を目的に行動するようになりました。夢は現実が否定する。でも現実で稼いだお金は裏切らないから。

今回明かされた鬼塚夏美の過去は、桜小路きな子や米女メイ、若菜四季達で描かれた「周囲から見られる事と自分の気持ち、両者にどういう折り合いをつけるのか」とは異なるものでした。
鬼塚夏美は「夢を見る資格なし」を突きつけられ続けた経験から未来と自分に期待しなくなった人間なので、自分の考え方一つで突破できたきな子達よりは澁谷かのん達一期生に近い。
その中でも平安名すみれは「Liella!を利用して成り上がる」という点で同じ。だから鬼塚夏美について警戒していたのでしょう。鬼塚夏美に「自分と似た匂い」を感じ取っていたと言えますね。

現実に心と夢を折られて、夢を見ることすら忘れてしまっていた鬼塚夏美が自分の夢を見る様になる。

今回のエピソードは突き詰めて言えばそれだけの話なんですが、その前段階である「頑張れば出来そうなのに、出来ない事を考えて挫けそうになるきな子達」に怒るシーンは良かったですね。
鬼塚夏美は勉強も運動もそんなに出来なくて、未来の自分に期待した「モデル」という仕事についても裏切られ、夢を見ることすら忘れてしまった人間なので、「今出来なくてもちょっと頑張れば出来そうなもの」に挑戦する前に諦めてしまいそうになるきな子達に我慢ができなかった。

「諦めるぐらいなら夢なんて語ってほしくない!」
「皆さんの夢は決して実現不可能な夢ではない。それはとても素晴らしいことですの。頑張れば手が届くかもしれない。そういう夢があるというのは」

またベタですが、ここで「~ですの」という語尾を使ってない辺りに真剣さと鬼塚夏美の素の人格が伝わってきますね。
取って付けたような語尾ではあるんですが、1話丸々かけて「鬼塚夏美はこういうキャラ」と描いてきたからこそ、「語尾がない=素の自分で語っている」というストレートな感情表現だと受け止められる。
贅沢な尺の使い方をする作品だと思います。

自分の夢は見なくとも

そんな鬼塚夏美の話は、澁谷かのんとのやりとりの中で描かれましたね。
ここで澁谷かのんが選ばれたのは鬼塚夏美と同じく「現実に心を折られ続けた」という経験を持つからでしょう。
方向性は違うけれど、同じく「心を折られた」という苦い経験をしている澁谷かのんだからこそ、「夢を見ることすら忘れてしまった」鬼塚夏美の気持ちに寄り添えるというのはあるのでしょう。
鬼塚夏美には夢がない。
桜小路きな子の「もっと上手くなりたい」のようなささやかな夢もない。米女メイや若菜四季のように「Liella!の一員、スクールアイドルとして輝いていたい」という大きな夢もない。「スクールアイドルになろうよ」と誘ってくれても、「皆と同じように輝くもの」すら自分の中からはもう失われてしまった。
そう思っていた鬼塚夏美に澁谷かのんが提示したのは「皆と同じ夢を、一緒に叶える事はできる」ということでした。
鬼塚夏美には確かに夢はありません。しかしそれは「叶えるべき夢がない」というだけに過ぎません。澁谷かのんが言っているのは「だからこそ一緒に『皆の夢』を叶えようよ」ということ。『皆の夢』への参加なんですよね。
「それは夢を持たなくても出来るんだよ」という澁谷かのん。そしてそれに応じて『皆の夢』に参加することを決めた鬼塚夏美はぐっときましたね。「見つけた」と語る鬼塚夏美の「夢」も言葉にしないからこそ美しかったと思います。

またこの「『自分の夢』は持たなくとも、『皆の夢』を一緒に叶えることは出来る」というのは「自分の夢(=やりたいこと、叶えたいこと)がなくても、誰かの夢と一緒に頑張りたい!と思うならスクールアイドルをやってもいい」ということなので、シリーズが描いてきた「スクールアイドル」の姿がまた一段階面白くなったのも大事なところかなと思います。

結びに

個人的にはデイミアン・チャゼルの『ラ・ラ・ランド』が引用されていた点も興味深く、そして「鬼塚夏美と澁谷かのん」の二人をより印象的にしていたと思いました。
あそこで『ラ・ラ・ランド』を持ってきたのは「望んだ夢とは違う未来が待っていたとしても」ということなんでしょうね。
澁谷かのんも鬼塚夏美も決して望んだ通りの未来を生きてきたわけではありません。むしろ大きな挫折を味わい、自分に自信を持てない人生を歩んできた二人です。
そんな二人だからこそ『ラ・ラ・ランド』を引用することで「望んだ未来でない今だからこそ何がしたいのか」という部分がより一層際立っている。あとは二人も観客もひっくるめた「皆の夢」というのもあるのかもしれませんね。皆が見たい夢はこれで、これを一生懸命に演じることに意味があるんだと。

今回は非常に見応えのあるエピソードでした。
鬼塚夏美の今後の成長にも期待できますね。

プリズムの煌めきを広めるためによろしくお願いします。