見出し画像

『BIRDIE WING』という破茶滅茶なアニメを見て、七色の弾丸に心を撃ち抜かれてほしいという話

今期はアニメが豊作だ。
現代に転生した諸葛孔明が現代人の少女の夢を叶えるべく軍師として活躍する『パリピ孔明』は三国志と現代クラブ文化の魅力を上手に引き出した巧みな作品だし、ジャンプ+の看板作品としてアニメ化発表以前から存在感を示し続けてきた『SPY×FAMILY』はその前評判と期待の重圧に負けない素晴らしい作品に仕上がっている。
だが、もし貴方が「破茶滅茶で、でも抜群に面白いアニメ」を望むのなら、私は一片の躊躇いもなく『BIRDIE WING』を勧めるだろう。
それほどまでに『BIRDIE WING』は私の心を撃ち抜いていった。見事にだ。
そして私は貴方にもこの作品に撃ち抜かれてほしいと心の底から思っている。

『BIRDIE WING』のあらすじを一言で表すのなら「東欧の小国で賭けゴルフで生計を立てている少女イブが、日本の天才女子ゴルファーの天鷲葵と出会い、そして現実世界で再戦するまでの物語」だ。
生まれた場所も育った境遇も違う。そんな二人のゴルファーが運命のように出会い、互いのゴルフに惹かれ合い、そして「いつかまた戦おう」と誓い合い、二人は「いつか」を実現させるために戦っていくのだ。
この筋書きを聞いた時、貴方はおそらくこう思ったことだろう。「これのどこが破茶滅茶なのか」と。
賭けゴルフは確かに興味深い設定だが、これだけなら「興味深い」程度ではないかと。そこを除いた筋書きだけ見れば至極キャッチコピー通りの「青春」ではないか。
本作が破茶滅茶なのは他でもない。その賭けゴルフの描写である。何から何まで「どうかしてる」のだ。

コースの中央に線路が通り、定期的に貨物列車が通る一話の舞台はまだ序の口。国営カジノの権利を巡るマフィア同士の抗争に参加することになった際は、人目を避けるために建造された地下のゴルフ場で勝負する。この地下のゴルフ場は「全自動でゴルフコース生成される(ランダム設定あり)」という代物で、「決着がつくまで何度でもコース全体が変更される」というとんでもない設定になっている。当然イカサマもありだ。
とにかく勝てば良い。相手に負けを認めさせればそれで良い。それがイブの育った世界のゴルフであり、そういう無法地帯で稼いできたイブのゴルフは作中でも「力でねじ伏せる」と表現されるほど攻撃的だ。
その象徴とも言える「七色の弾丸」「レインボーバレット」。イブの必殺技とも言える超人的ショットであり、この超人的ショットを武器に、イブは自分のやりたいこと、得たいものを得るために相手の心を撃ち抜いていく。
そんな痛快で爽快な描写がたまらなく面白い。勝ちが決まった際に流れる中川幸太郎の音楽も最高だ。
特に第一部の最期を飾った姉弟子・ローズとの対決は今期でも最高のものの一つだろう。
表舞台でも活躍できる実力を持ちながらも、目先の欲に溺れてしまったローズとどんな事があっても表舞台に行き、葵と戦うイブを対比させつつ、人生そのものを燃やし尽くしたローズの最高を、イブは真正面から撃ち抜き超えていく。
それはどんなものでも乗り越えて表舞台へと羽ばたいてみせるという決意が垣間見える素晴らしいショットで、「イブに勝って、目先の欲に溺れた人生を後悔したい」というローズを「後悔させない」と思わせるほど美しい。

そしてそんなイブの「力でねじ伏せる」攻撃的なゴルフの描写が面白ければ面白いほど、ライバルであり再戦を誓いあった天鷲葵の「ゴルフを楽しむ才能」の純粋さが際立っている点も本作の面白いところの
どんな苦境でも笑い、自分が追い詰められるような展開でも楽しんでいられる天鷲葵のゴルフはイブのそれと対極だ。
イブのゴルフが「賭けゴルフ」「弱肉強食の世界」によって形成されたものなら、天鷲葵のゴルフは天性の才能と恵まれた環境によって育ったものである。
本来なら交わることがなかっただろう二人。運命の女神によって出会い、必然のように互いのゴルフに惹かれ合い、「もう一度、今度は本気で最期まで戦おう」と誓い合ったイブと葵。
この二人の違いが物語が進み、両者の違いが際立っていくほど「二人の戦いが見たい」「この物語の最期はイブと葵、どちらが勝つのだろうか」と期待感は高まっていく。そしてその期待に応えるように、物語も更に面白くなっていくのだ。

そんな『BIRDIE WING』だが、第九話からは日本編に突入している。
日本といえば前述したように天鷲葵の暮らす国。ついにイブは「葵の近く」まで辿り着くことが出来たが、ゴルファーとしては無名で実績も何もないイブが葵と同じコースを回ることは出来ない。戦うためにはまだまだ試練が残っている。簡単に最終決戦にはいかないようだ。
それでも本作の面白さがきっと落ちることはない、むしろ更なる高みへと登ってくれる事を確信しているのは、私が既に「七色の弾丸」に撃ち抜かれ、この物語を心底楽しんでしまっているからだろう。それはイブが葵に本当のゴルフを教えられ、葵がイブのゴルフに夢中になったことと全く同じである。
早く観てほしい。そして楽しんでほしい。
この七色の弾丸の衝撃が増していく光景をリアルタイムで見ることができるのは今だけなのだから。




この記事が参加している募集

見返したい名試合

プリズムの煌めきを広めるためによろしくお願いします。