『パリピ孔明』のキャスティングとプロモーションが面白かったと言う話

今期は面白いアニメが多かった。毎日見ても消費が追いつかないほど多かったように思う。
その中でも特に良かったものの一つが『パリピ孔明』だったのだが、『パリピ孔明』で良かったことの一つが「音楽」だ。かかる曲が全て素晴らしいのは当然のことなのだが、「こういう方向で作中の音楽や世界に説得力を与えることも出来るのか!」という点で『パリピ孔明』は特に素晴らしかったと思うのだ。

歌唱担当により底上げされた「孔明の説得力」

『パリピ孔明』では月見英子と久遠七海に声優とは別に歌唱担当が配役されている。英子の歌唱担当は96猫、七海の歌唱担当はLezelである。
本編でキャラクターを演じる声優とキャラクターの歌唱を担当する人間を分けることそのものは別に珍しいことじゃない。マクロスシリーズでは当たり前のように行われていることだ。
それでも気になったのは本渡楓や山村響という「歌が上手い声優」を配役しておきながら、あえて歌唱担当を別に配役していることである。
あのエイベックスが「声優がキャラクター表現の延長線上で歌う歌」の商品的価値を理解していないわけがない。本渡楓と山村響の歌の魅力やその面白さに気づかないほど馬鹿であるはずがない。
あえて。あえてなのだ。
全てを理解した上で、「こっちの方がいい」と判断したから96猫が英子として歌を歌い、Lezelが七海として歌う方向性を支持したのだ。
なぜその判断をしたのかといえば、やはり「孔明が認めるほどの歌」を求めたからなのだろう。
『パリピ孔明』では「孔明が認めた」という事実が何よりも重要な意味を持つ。「孔明が認めた」ということが起きた事象に説得力を与えており、孔明が計略を持って「推して発信する」ということに面白さがある。
しかしながら、その説得力は「孔明が認めた」ということを視聴者が納得できるものでなければいとも容易く砕け散ってしまう。「孔明が天下泰平を見た英子の歌」も、視聴者が「孔明がそう思うのも納得だなー」と思えなければ、孔明がどれだけ推しても「そこまでじゃない」なのだ。
だから本渡楓と山村響を配役していながら、あえて歌唱担当を別に配役したのは完全に正解だと私は思っている。あの歌声があるから「孔明が認めるのも納得だ」と思えるからだ。
またその「歌唱担当もいるからこそのキャラクターの説得力」ということを改めて示したかったのか、「月見英子(歌唱担当)」「久遠七海(歌唱担当)」として96猫とLezelがクレジットされているのも胸を熱くさせてくれる。
本渡楓と96猫、山村響とLezelが二人三脚で作り出したキャラクターが最高にアガる作品にしているのである。

プロモーションについて

またプロモーションの面でも『パリピ孔明』は面白かった。
その中でも個人的にぐっと来たのは「カバー曲の配信」と「OPである「チキチキバンバン」のダンスモーションの期間限定無料配布」の二つで、どちらも「この手があったかぁ」と唸らされた事を覚えている。

カバー曲の配信については、やってもおかしくはないと思っていた。
そもそもOPの「チキチキバンバン」はハンガリーの楽曲をアレンジしたもの(文脈的にはDA PUMPの「U.S.A.」が近い)だし、EDの「気分上々↑↑」もmihimaru GTが2006年に発表した楽曲をカバーしたものだ。
その点を考えるとカバーそのものは別段おかしくないのだが、楽曲のチョイスが完璧だ。90年代から00年代前半辺りのエイベックスが強かった頃の音楽を「英子や七海が歌ってみた」と歌ってみた動画の文脈に乗せてくるのは強い。エイベックスの強みを感じてしまう。

同じくエイベックスが音楽周りを仕切っていた『キラッとプリ☆チャン』が同様のことをゲーム筐体でやっていたのだが、「動画配信」というあちらと合わせて「イマドキっぽさ」がある良いプロモーションだったと思う。

もう一つの「チキチキバンバン」のダンスモーションも、OPで見せてくれる独特の振付が面白いことから欲しくなるし、無料配布することでVtuberや3DCG界隈にもリーチする試みなので思い切った判断だったし、そのモーションを使って遊んでる人達も多いので上手い仕掛け方だったと思う。

結びに

『パリピ孔明』は音楽周りがリッチだったので見ていて楽しい作品だった。
英子と七海が終盤の軸になっていたので、この二人の歌について述べてきたけど、中盤のKABE大人の話も凄く良かった。
精神的な脆さから引退を決めていたKABEが自分に何度も「戻ってこい。そして俺と戦え」と言い続けてくれた赤兎馬カンフーに挑む展開はそれそのものもよいけど、赤兎馬カンフーが『ヒプノシスマイク』などでも活躍している木村昴だったので「高い壁」ということがよく分かるキャスティングだった。
またそのKABEと赤兎馬の決着を仕切っていたMCがDJ KOOというのも良かった。KOOさんの仕切りなら、そら赤兎馬カンフーも安心して任せられるわ。

今期の中でも特に「音の力」を過信せず、ただ自信は持っている。
そういう強気で自然に自分の武器を振るう作品が1クールに一本ぐらいあってほしいなぁ、と思った。

プリズムの煌めきを広めるためによろしくお願いします。