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『i☆Ris the Movie -Full Energy!!-』を見た。

i☆Risの話がしたい。
i☆Risとは声優事務所「81プロデュース」とエイベックスがタッグを組んで開催した「アニソン・ヴォーカルオーディション」の合格者で結成された声優アイドルユニットのことである。
デビューは2012年のことなので活動は今年で12年目。
最初期は「ライブを開催しても客数が全然伸びない」などの笑えない体験をしていたものの、現在では誰も笑うことが出来ないほど立派な経験と、皆を笑顔に出来る素晴らしいパフォーマンスを兼ね揃えた存在として活動し続けている。
「そんなi☆Risの映画を制作します!」という話を聞いたのはデビュー10周年ライブの辺りのことだろう。ライブ自体は見てなかったけど、Twitter(現:X)のTLを流れてきて「えーっ!マジー?」と思った事を覚えている。
最初は「まあアイドルのドキュメンタリー映画とか自伝みたいな映画とか結構あるからな」と納得していた。i☆Risは前述した下積み時代の笑えないエピソードからの返り咲きも含めてドラマチックな物語を持っているので、それを映像にすれば面白いのは何となく分かっていた。
しかし実際に制作されたものは本当に「i☆Risの映画」だった。つまり「i☆Risが本人役で出演し、i☆Risを語り、これからのi☆Risを提示する映画」だったのだ。i☆Risは声優アイドルだけど、「アイドル本人が自分達そのものをアニメの中で描く」とか挑戦と冒険がすぎる。
まあ私にとってi☆Risは「ファン」と言えるほど密度と熱意のある付き合い方をしていないものの、『メタルマックス4』か『プリティーリズム・レインボーライブ』か『バトルスピリッツ』辺りで名前を覚えて以来、何だかんだで10年以上見続けている存在なので、映画のことが「気にならない」といえば嘘になる。
スタッフ的にもi☆Risと仲が良く、『プリパラ』『キラッとプリ☆チャン』でもローテ脚本家に名前を連ねていた福田裕子先生が脚本を担当していたとし、ライブパートはタツノコプロと乙部善弘が担当するのでそこへの期待もあった。
そういうわけで見てきたのだが、「アイドルとi☆Risへの理解度の高さからくる物語が魅力的な60分」だった。企画コンセプトを考えると問題作だと思うが、内容面ではお世辞抜きで素晴らしかった。
まず本作の舞台となる異世界「リスリスランド」が面白い。
「何にでもなれるけどアイドルにはなれない異世界」というリスリスランドは「アイドルって何をしたらなれるものなのか。そもそもなるものなのか」という定義できない存在であることを示しつつも、アイドル以外になれることでi☆Risの五人の願望を面白おかしく叶えつつ「これから何になりたいのか」を問うていく。
最終的に五人が「i☆Risであること」を選びi☆Risになるのだが、それも「なりたいものが定義不明の<<アイドル>>ではなく定義された<<i☆Ris>>だから」であり、本作の脚本を手掛けた福田裕子の理屈の通し方と設定の活かし方に舌を巻く。
また「ファンがアイドルを応援し、アイドルがファンを元気づけることで高みに登っていく」というファンとアイドルの相互関係を描いたクライマックスも、王道を押さえていて素晴らしかった。
タツノコプロのCGライブも含めて「アニメだから出来るライブ」で見応えもたっぷり。
どう見てもアバンギャルドな建付けの作品なのに、一つ一つの要素を美しくまとめ上げていく様子は「それ自体が芸術」と言っても過言ではないだろう。
加えて言うなら「ギャグとして挿入されたi☆Risとメンバーのエピソードが殆ど元ネタがある」というファンサービスっぷりも良かったと思う。
デビュー直後のライブの集客が本当に酷かった話とか山北早紀の上京直後のエピソードなどは、普通に聞いたら「笑えないエピソード」に分類されるはずだが、i☆Risは!10年やっているので!
それらのエピソードも「今だから笑える『笑えないエピソード』」ぐらいの温度になっており、「このエピソードをギャグにして笑っていいぐらいの年月と成功をした五人なんだなぁ」と10年の重みを噛み締めさせ、余韻に浸らせるものとして成立していたんじゃないかなと思う。10年周年記念映画って強いや!という話だが、それが出来るのは今成功しているからこそなので。i☆Risは凄いのだ。数々のトラブルをこうしてギャグに出来るぐらいなんだから。
なお2021年に円満卒業した澁谷梓希もなかったことにしておらず、分かる人には分かるぐらいの拾われ方をしていたのも個人的には熱かった。話的にはずっちゃん(澁谷梓希)の存在をなかったことにしても問題ないが、そこをなかったことにしなかったことを評価したい。ありがとう。



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