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『ミュークルドリーミー』17話に見る「苦手を無理に克服しなくてもいい」という優しさ

サンリオが4月から展開している『ミュークルドリーミー』が面白いのです。
『ジュエルペットハッピネス』や、最近では『まちカドまぞく』なども手掛けている桜井弘明監督の作風が自分の波長とぴったりと合うということもあるのですが、それを差し引いても毎週高いところで安定していて滅茶苦茶に面白いです。日曜はこれを見終わったら何もしたくなくなってしまうぐらい楽しんでいるのですが、今日放送された17話の話は、先週視聴した次回予告から予想した内容を良い意味で裏切った本作屈指の傑作回でしたね。
あの予告内容で、ここに着地するなんて誰も想像してないですよ!

「恐怖のプチトマトマン」というサブタイトルなのに、こんなに美しく、良い話で終わるなんて……!

苦手意識は無理に克服しなくてもいい

17話の内容でよかったのは、嫌いなプチトマトに挑戦したゆめちゃんを通じて「無理に苦手意識を克服しなくてもいい」というメッセージを展開できていたことですね。

1話から度々描写されてきたゆめちゃんのプチトマト嫌いですが、今回のエピソードを経てもゆめちゃんのプチトマトへの苦手意識は克服されていません。エピローグでも「夢の中では食べられたから」と現実世界でもプチトマトへと挑戦していますが、食べ終えての感想は「美味しかった」ではなく「やっぱり苦手」であり、苦手意識を克服しているとは言えないでしょう。

では『ミュークルドリーミー』が今回わざわざプチトマト嫌いなゆめちゃんにスポットを当てて描きたかったのはなんだったのでしょうか。
それは自発的にプチトマトを食べるも「やっぱり苦手」と語るゆめちゃんに、ママが語った「私も昔はしいたけが苦手だった」「でも大人になったら食べられるようになった」「だからきっと大丈夫」が全てでしょう。

ママが言っているように、苦手意識を今すぐ克服する必要はないのです。
食わず嫌いはよくないことですが、一度食べてみて「ダメだー!」となったものを焦って克服する必要はない。長い時間をかけて少しづつでいいから克服していけばいい。
話の下地になっているものは「プチトマト嫌い」ですが、これは何にでも当てはまることだと思います。
無理に克服しなくても時間が経ってみると意外と上手くいったりする。
「そんなものだったりするので、今苦手に思っていても焦ることないよ」ということを、こういう形で描いてきた『ミュークルドリーミー』は凄いと思うんですよ。
キャラクターの頑張りに対して「克服」以外の方法でちゃんと肯定するという誠実さが素晴らしい。
日曜の朝から凄く良いものを見せてもらいました。

全てを包み込むプチトマトマンの狂気

とまあ、真面目な話はここまでにして。
今週の内容は良い話であると同時に、これまで放送された『ミュークルドリーミー』のエピソードの中でも一、二を争うほど狂気的な一話でしたね。
ゆめちゃんの夢の中に出てきた「自分の顔を千切って食べることを強要するプチトマトマン」から始まって、「夢から現実へと侵食して暴れまわるプチトマトマンデラックス」「モツ抜きの要領でプチトマト栽培ロボからプチトマトを抜き取るプチトマトマンデラックス」「突然襲われてトマトの海の中に沈むときわちゃん」などが展開されていく。
『ミュークルドリーミー』は元々「一話の中に詰め込めるだけ詰め込まれている」という作風なので、今週のように次から次へと繰り出されるネタの数々にはツッコミが全く追いつかない。
「始まったと思ったらもう終わってる」がいつもの出来事になってしまっている『ミュークルドリーミー』ですが、今週はいつにも増してジェットコースターのような一話になっていて凄く良かった。

特に「プチトマト」という食材を扱っておきながら、SEのチョイスが明らかに「嫌いな人にはこう聞こえる」になっていたのも面白くて。
プチトマトが嫌いではない人間からすると「その音はプチトマトの音じゃないだろう」とは思うのですが、その意図的にプチトマトの路線から外したSEのチョイスがあるから「本当に嫌いな人には同じものでもこう見えている」という部分が立っていて、嫌いな人とそうではない人の温度差を楽しむコメディにもなっている。
まいらちゃんの納豆トークなども「嫌いな人からすればそこが不快」を生かしたネタで、オチのつけ方といいよく出来た一話だったと思うんですよ。
プチトマトマンは明らかに狂気ですけど。狂気以外の何物でもないですけど。
夢からやってきた他人にプチトマトを食べることを強制する怪人とは一体なんだったのか。
夢と現実の境界線を簡単に飛び越えるな(『ミュークルドリーミー』は「夢と現実を行き来する」という作劇の関係上、その辺の線引は意外としっかりしている作品です)。

最後に

今回取り上げたのは『ミュークルドリーミー』のコメディな部分ですが、「幼馴染だった男女が中学生になって、周囲の変化から異性であることを意識し始める……」という恋愛要素もあって、これも急かずにじっくりと描かれているため滅茶苦茶に面白いんですよ。
少し展開が進むたびに、思わず「中学生の初々しい恋愛……最高!」と、ラブコメ大好きな悪い大人の発言をしてしまうぐらい最高なので、こういうのが好きな方にもぜひ見ていただけたら、と思います。

『ミュークルドリーミー』は1年物。
まだまだ先は長いので少しづつ距離を詰め。変わっていく幼馴染の関係性に心をかき乱されながらじっくりねっとり見守っていきましょう。

プリズムの煌めきを広めるためによろしくお願いします。