『ラストマイル』は2024年の最高傑作だ

『ラストマイル』は今年一番の大傑作だ。
断言してもいい。残り三ヶ月の間に『ラストマイル』を超える作品は出てこないし、過去九ヶ月の間に『ラストマイル』に届く作品はなかった。
唯一抜きん出て並ぶものなし。2024年公開映画の絶対的王者。
それが『ラストマイル』という作品に私が与える評価である。

私は本作の脚本を手掛けた野木亜紀子という脚本家が大好きだ。
ファンだと言われればおそらくそうだと言えるぐらいには「脚本:野木亜紀子」という文字に全幅の信頼を置くぐらいには評価している。
野木亜紀子脚本作品で好きなのは「登場人物達の心がカオス理論的で善や悪と言った単純な言葉で表す事ができないほど複雑で、また一定の範囲で安定することもなく絶えず変化し続けている」という点だ。
要は「『人間の持つ善性や悪性、好き嫌いと言ったものはその時の体調や状況、環境によって結構変わる』というところで安定している」ということで、そういう「さっきまでと言っていたことが違う(でも本人の中ではおそらく矛盾してない)」みたいな部分が好きなのだ。どのキャラクターも隣にいそうな質感を帯びている事を愛してしまっているのである。
『MIU404』ではそうした隣人的質感が善性と悪性のせめぎ合いと「自分は紙一重のところで留まっているだけ。何かが一つでも違えば彼らのようになっていたかもしれない」という形で演出されていて、その体温すら感じられそうな物語の手触りに少し怖くなってしまったし、『アンナチュラル』での「死によって安定してしまったからこそ読み取れる故人の情念」はもう変わることがない事実を突きつけられているようで悲しさがあった。
『ラストマイル』でもそんな隣人感は健在で、本作に登場する全てのキャラクター達は「どこかにいそう」な気配を纏っているのだが、だからこそ本作で描かれる内容は恐怖と緊張感が感じられる。
だって本作で描かれるのは「物流センターから発送された荷物を開封したら爆発した。爆弾は全部で12個ある」という連続爆破事件なのだから。
現代社会の血管とも言える物流を舞台にした連続爆破事件なので、それはもう怖い。
日常的にネット通販を利用している人間ならより身近に感じられることだろう。だって届く事を楽しみにしていた荷物を開封したら爆発する。人が死ぬのだから。
おかげで作中で荷物を開封する描写が差し込まれるたびに身をこわばらせてしまう。「爆発するかもしれない」という疑惑が「開封する」という描写に緊張感をもたらし、爆発しなかったことに解放感をもたらしている。
これを上映時間の冒頭から最後まで飽きさせずに見せ、最後にはしっかりとエンターテイメントとして終わってみせるのだから見事というしかない。
犯人の目的と動機が「それ」である以上、「爆弾は本当に解体されたのか……?」という疑問を投げかけている点も素晴らしく、未来への祈りのような結末も個人的には気に入っている。
物も人も社会も世界も動き続けていく。
だからこそ少しでも変われるかもしれない。変わっていけるかもしれない。
そんな祈りを、手が届きそうなほど身近な距離で見られるのはきっと幸福なことなんだと思う。
五年後に『ラストマイル』を「過去の作品だ」と思えたらいいね。


プリズムの煌めきを広めるためによろしくお願いします。