『アキバ冥途戦争』がメイドとは何かを問いかけてくる
話数を重ねるごとに『アキバ冥途戦争』は血と硝煙を撒き散らしていく。
敵対組織ながら主人公のなごみと親しくなったねるらは、情報を横流ししていたことがバレ、組織に粛清されて死んだ。
メイドリアンのメイドとして現れた愛美は組織そのものの裏切りによりその体に無数の銃弾を撃ち込まれ、血の海に沈んだ。
謀略により「宇宙人モチーフのメイド」から「ウーパールーパーのメイド」に鞍替えさせられ、屈辱を味わっていた元メイドリアントップだった女は、愛美を慕う女にドスを突き刺され、赤い血と土気色の肌が魅力的なメイドになってしまった。
もはや「お仕事アニメってなんだっけ」と言いたくなってしまう『アキバ冥途戦争』ですが、物語的には一貫して「メイドとは何か」を描いているのが怖いんですよ……。
まあこの作品の「メイド」って任侠とかヤクザのことなんですが……。
ヤクザをメイドに持ち換えて
序盤の『アキバ冥途戦争』は言葉遊びの面白さで押し切る作品でした。
上納金は「おひねりちゃん」で、「エンコを詰める」は「ツインテールを切る」で、兄弟盃は姉妹の契り(一杯のラーメンを分け合う)。任侠映画でよく見かける言葉や描写をメイド喫茶のメイドに置き換えることで、絵面と意味にギャップが生まれ、そのギャップの面白さで楽しませる作品だったんですよ。
四話とか上位組織からやってきた講師に洗脳教育を施される話なのに笑えたのは、「メイド喫茶でやってる」という「やってることに対する映像のギャップ」があればこそ。
続く五話もその延長線にあった笑える話だったので、こうした「絵面とのギャップが面白いコメディ」をずっと続けていくのかなと思っていたんですが、愛美の出所から始まった敵対メイド喫茶グループ「メイドリアン」との抗争編以降はその見立てが間違いであることが明らかになってくる。
『アキバ冥途戦争』って「任侠や仁義をテーマにした物語を『メイド』として出力している」だったんですよ。
移ろいゆく時代の中でヤクザがヤクザでいられなくなったように、メイドもメイドでいられなくなっていく。
仁義で飯が食えるか。萌え萌えキュンで命を守れるか。
そういう時代の中で殺されそうになっても萌え萌えキュンのメイドであることを諦めない。メイド(=任侠)であり続けるために、メイド(=仁義)であることを捨ててなるものか。
そういう「秋葉原のメイド喫茶のメイドとしての生き様の話」を展開し始めたことで、この題材だから面白い作品になっていったんですよね。
メイドなき戦いへ
そんな事を考えながら楽しんでいたんですが、最新話で主人公の指導役である刑務所帰りのメイド・嵐子が服役前に努めていたメイド喫茶の店長を暗殺するように仕組んだのが、秋葉原メイド喫茶グループの頂点に立ち、かつての同僚であることが判明したり、嵐子に本気で心を惹かれて足抜けしようとした殺し屋をメイドでありたい意思を利用されて社会的に抹殺された過去を持つ仲間が殺してしまったりと、物語は血なまぐさい方向へと向かい始めている。「仁義なき戦い」への入り口が開き始めちゃったんですよ。
こうなってくると「嵐子はメイド喫茶のメイドで居続けることが出来るだろうか」だけでもう面白い。
主人公に「メイドとは何たるか」を教え、良き先輩として活躍していた嵐子が萌え萌えキュンを捨てて復讐鬼になるのか、それとも萌え萌えキュンを持ち続けるメイドであるのか。
幹部に粛清された姉妹との約束で「メイドであり続ける」を掲げている主人公は、嵐子に何が出来るのか。何をご奉仕できるのか。
死と硝煙の匂いが漂いすぎている作品ですけど、だからこそ「メイド」に戻ってくるこの物語に期待してしまいますね。
声優に何をやらせてるんだ
それはさておき『アキバ冥途戦争』は声優が豪華なんですよ。
主役級の女性声優が次々と出てくる。そして次々と死ぬ。高橋李依も竹達彩奈も小倉唯も小松未可子もみんな死んだ。生き残った声優もほぼほぼ今回のためだけに名前のないキャラの声優として出演している。
一話で使い捨てられるようなキャラに人気声優を連れてくるんじゃない!と思ったりもするんですが、一方で釘宮理恵をメイド達の始祖的存在として設定したり、平野綾を「主人公のif存在で、この世界に染まり切って、手段もそれに準ずることしかできなくなってしまった」という超重要人物にキャスティングしていたりする。
分かる人には「そういうこと、なのかな?」と邪推させるキャスティングは興味をそそられる。
まあそうした邪推要素がなくとも、地獄の底から聞こえてくるような恨めしい演技は必聴であるし、愛美の広島弁は一気にヤクザ映画の世界に引きずり込んでくれるので一度見ておくことをおすすめする。
まあそういう観点を持たなくても、主役を演じる近藤玲奈の使い方ですよ。
「声優に何をやらせてるんだ……」すぎて面白いですね……。
まさか近藤玲奈もこんな事をやらされることになるとは思わなかっただろう……。
プリズムの煌めきを広めるためによろしくお願いします。