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てぃくる 51 一大事

「て、て、てえへんだああああっ!!!」
「なんだなんだ、はっつぁん、朝っぱらからやかましいね」

「ご隠居! え、えれえこった!」
「だから、なんだって言うんだい。全く」

「俺のし、尻が」
「ん? おまえさんの汚い尻がどうしたい?」

「……割れた」


  ばきっ!


「いい加減にしな! 尻ってえのは元々割れてるもんなんだよ。割れてなかったら、そっちの方が見せ物だろうが」
「いや、そうじゃなくて尻が……三つに」

「ほう。おまいさんのにしちゃあ、いい尻だね。白くてすべすべだ」
「いや、そういう問題じゃねえっすよ! 尻が三つに割れて皮が剥けて、身が出ちまってる!」

「なにを大げさな。そういうもんなんだよ。びっくりしなさんな」
「え? そういうもん……て?」

「おまいさんは……」


 ごくり……


「ナンキンハゼだからね」
「たますだれ……すか?」


 ばきっ!


「ぼける余裕があるなら、食われても大丈夫だね」
「え? ちょ、なんすか、その食われても……てなあ。あ、うわああっ! おまえらなんだっ! 俺を食うなあっ!!」

「はっつぁん、達者でな。どこかで、きっと芽が出るだろうよ。幸運を祈る」

☆ ☆

 ということで。尻が三つに割れたはっつぁんは、めでたく鳥に食われてしまいました。食われて初めて遠い世界に旅立てるのですから、しょうがないですね。

 ナンキンハゼの実が裂けて、中の種が見えるようになってきました。白い種を集めて煮沸しよく擦り合わせると、種の周りの蝋質が溶けて水の上に浮きます。それを冷やし固めれば木蝋を得ることができます。ハゼやヌルデの種から蝋を取るよりもずっと簡単ですので、蝋燭作りなどに利用してみてください。

 蝋と言っても、その実態は油。鳥に取ってはごちそうですね。でも、種自体は殻が堅くて鳥には消化出来ません。そのままうんちと一緒に排出され、芽を出すチャンスを待つことになります。
 水を弾く蝋が種の周りをすっぽり覆っていますので、鳥に食われなかった種は土に落ちても発芽に必要な水がなかなか得られません。鳥に食われることで初めて発芽のチャンスが来る。なかなか巧妙な仕組みです。

(2013-11-01)

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