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【感想】遅番にやらせとけ

 今回の記事は、キタハラさんの御本「遅番にやらせとけ 書店員の逆襲」の感想文となります。
 キタハラさんは私の推し作家さんです。圧倒的な筆力と観察眼で、読みごたえのある良質な文章を届けて下さる方です。

 デビュー作「熊本くんの本棚」の時にもこういう記事を投稿しました。今回も同様に「自分の感情を記録しているだけ」なので、相変わらずレビューとしては役に立たないものを書いています。どうか優しい視点でお付き合いください。

 六月には既に発売されていた御本です。ウキウキで購入していたものの、私自身がなかなか読書をする余裕がなく……どうせ読むのなら万全な状態で読みたかったので延び延びになり、先日ようやく読み終えた次第。(なお画像内の「熊本くん」は同日発売だった文庫版です。これでもっとたくさんの人に届くね嬉しいね)

 大きなネタバレを回避しつつ。
 まず、読み始めに思ったのは「キタハラさんの引き出しの多さがすごいな」ということでした。「熊本くんの本棚」や二作目の「京都東山「お悩み相談」人力車」とは違う、もっと言うならカクヨムやエブリスタで読んできた今までのキタハラ作品とも違う、近所の書店で繰り広げられていそうな等身大の現実世界が出て来た……!
 もちろん、今までの作品も決して嘘くさかったわけではないんです。ただ自分にとっての非日常(たとえば行ったことのない京都であったり、参加したことのない劇団のお話だったり、現実でも自分にとっては遠い場所)へ「まるでその場にいるように」潜り込ませてくれるところが凄みだと思っていたので、今回の「書店」という読者にとって身近な世界を描いていることが、新たな切り口のように感じてしまったのです。
 違和感なく没頭できる文章は今回も変わらず、物語に潜り込んだまま最後まで読み終えました。
 内容としては、ざっくり言えば「書店の遅番アルバイト君たちがちょっとずつ成長していく物語」ということになるんでしょうか。
 それぞれ事情を抱えたバイト君たち。花形の「朝番」ではなく「遅番」というポジションにいることそのものが、彼らの性質をあらわしている気がします。帯にも書かれているように「青春物語」のはずなんだけど、庄野さんというキーマンが、ただの青春では終わらせてくれませんでした。奇妙にすら思える言動の、その裏にあるものが見えた時、ああ、と声を漏らさずにはいられなかった……。
 ただ「同じ場所にいるから」というだけで仲間になどなれるはずはなく、それでも何かのきっかけがあれば、関係は少しずつ変化していく。それは彼らの本質が善良で、あからさまな善人ではなくても、他者の痛みや苦しみを想像することができる人たちだから。べったりとした友情などなくても、目の前の人を思いやれる人たちだから。
 みんなどこかに傷を抱えて、それでも今日を生きている。
 きっと不器用な書店員たちの「逆襲」は、ここから始まっていくんだろうな。もしかすると私もまだ、人生に「逆襲」できるのかもしれないな……そう思った時、この物語もまた、私に力をくれる一編になったのかもしれないです。

 圧倒的な筆力をもって紡がれる、優しさの詰まった物語でした。

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