こんな人じゃなかった
こんな人じゃなかった。
出会った頃はドキドキするようなセリフを真顔で言ってくれた。
顔が赤くなるような、ポエムのようなメールを送ってくれた。
かわいいとしょっちゅう言ってくれたし、
服が似合うとか髪型がいいねとか当たり前に言ってくれた。
今は違う。
過去のそういう話をすると、
やめて、と怒る。
彼の中ではあの頃のそんなことやこんなことはなかったことになってしまうのだろうか。
私たちは1人から2人になった。
そして、3人になり、4人になった。
彼はもうあの頃の彼ではない。
そう、こんな人じゃなかった。
私に甘い言葉をささやく代わりに、
朝から出勤前に自分で気づいて子どもたちの爪を切ってくれる。
子どもを病院に連れて行くと私が言えば、
それを当たり前と思わず「ありがとう」と言ってくれる。
相談ごとを蔑ろにされたことは一度もない。
私が親との関係に悩むと、
決して親のことも私のことも悪く言わず、
冷静に解決策を提示してくれる。
「今日はどんな1日だった?」と話を聞いてくれる。
子どもたちを褒めた後は、
私がちゃんと向き合ってくれているからだと私のことも褒めてくれる。
「ごめん」や「ありがとう」が苦手な人だったのに、
素直に言ってくれる。
こんな人じゃなかった。
私はなんだかすごい人と結婚してしまった。
こんなに愛の深い人だと思わなかった。
こんなにステキな夫、父親になるなんて思わなかった。
出会った頃の尖ったところは、
身体のラインと一緒に丸くなった。
そして、笑顔が優しくなった。
その変化に毎日びっくりするのだけど、
その嬉しいびっくりが消えてしまいそうで、
きちんと言葉にできない。
いつも胸の中にとっておこうと黙ってしまう。
バレンタインも「ハッピーバレンタイン!」なんて
おどけてただチョコレートをあげただけ。
伝えたい気持ちはたくさんあるのに。
こんな人じゃなかった彼は、
いろんなこと、感情を経験しながら、
そしてきっとその積み重ねで、
優しくて穏やかで勇敢で頼りになる人になった。
私は本当にラッキーだと思う。
そんな風に考えている私の、
1人挟んだ隣で彼は、今寝ながらオナラをした。
すごいタイミング。
そのオナラを鬱陶しく思わないでいられる関係で、
面白いことを一緒に面白がれる関係でいたい。
明日の朝、起きたら「いつもありがとう」って言えるかな。
いや、たぶん「寝ながらオナラしてたよ」って言っちゃうんだろうな。
これからもよろしくね。
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