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アスタロト公爵 #2 阿修羅王

※この物語は 阿修羅王本編より 悪魔の三大実力者のひとり、アスタロト公爵の作品を抜粋しています。特定の宗教とは 何の関係も無いフィクションです。

「夕べ・・・夜中に、どこかへ行っただろう?」
トンニャンは答えずにクロワッサンをちぎりながら、またバターに手を伸ばす。
「どこへ行ってたんだ?誰と・・・会っていたんだ?」

「安い恋愛ドラマだな。人間の女に似てきたぞ。」
アシュラは持っていたコーヒーカップを置いて、横を向く。
「俺に秘密を作るなら、何故パートナーに選んだ?
何故、あの不死の地獄から連れ出して、人間の少女の記憶をすり込んだ?」

何故あの時、『始まるのか?』と言ったのだろう。
何故、それを知っていたのだ?
覚えの無いままに、人間の少女になっていたというのに。
何故迎えに来たのが、トンニャンだと解ったのだ?

「来た。」
トンニャンが窓に向かってつぶやいた。

と、ほぼ同時に外が騒がしくなり、ガタガタと音を立てて、
アパルトマンの階段をたくさんの人々が登ってくる音がした。

「なんだ、あの人だかりは?」
いち早く窓際から下を覗いたアシュラの目に、
老若男女を問わず、手に手に何らかの武器を持った人々が飛び込んできた。小さなナイフや鉄パイプ、木刀のような物を持つ者もいる。

「人間狩りだな。かつての魔女裁判を思い出す。」
そうつぶやいた後、アシュラははじかれたようにトンニャンを振り返った。「大丈夫。シールドは二重に張ってある。人間達にはこの部屋は見えない。」

トンニャンはコーヒーを一口飲むと、今度はスクランブルエッグに手を付けた。
「ここが、テロリストのアジトか何かと思っているんだろうか。」
「おそらくな。人間の猜疑心は、持ち始めると限りない。
やられる前にやる。どんな宗教も哲学も、人間を救えなくなってきたな。」

子殺し親殺しは太古の昔からあった。
かつて「口べらし」という言葉があり、貧しい者達が子殺しをした事もあった。

だが二十世紀後半から二十一世紀初頭にかけて、
虐待による子殺しや思いつきの親殺し、動機なき殺人が横行し、全世界に広がった。

かの預言者の恐怖の大王は二年遅れでやって来て、
太陽に向かってそびえる対の巨大な建造物を崩壊させた。
人々はテロに怯え、戦争を反対しながらも、愛する者達を戦場に送り、
威嚇の為に発射されたミサイルは、やがて小さな島の片隅をかすると、
世界中を巻き込んだ第三次世界大戦が勃発した。
人々はまた大きな犠牲を払い、長い戦争の末にいくつかの小国が滅んでいった。

「覚えているか?日本という国があった事を。」
「忘れるはずがない。俺が燁という少女として、短い時を過ごした国だ。」

日本民族の最後の一人が亡くなったのは、
アシュラが燁として日本にいた時から、約三百年後の事だった。

「最後の一人は男だったな。
実験室のような個室を与えられ、毎日違った女をあてがわれていた。」
「日本人という血筋を残すという為だけにな。」
アシュラは苦々しげに唇を噛むと、
まだ食事を続けているトンニャンに向かいあい、自分もコーヒーを流し込んだ。

「学名をニッポニアニッポンという鳥を覚えているか?」

トンニャンが頷く。

「日本名を朱鷺(とき)といったな。
日本人の最後は、まるであの朱鷺の、ニッポニアニッポンと同じだった。
あの鳥も、何羽ものメスとめあわされ、常に監視され、檻の中で死んでいった。
人間は小子化などと言っていたが、何のことはない、
絶滅種と同じである事に、気づいてなかっただけだ。」

日本人が絶滅してから、もう千年以上の時を経たのだろうか。

ありがとうございましたm(__)m

アスタロト公爵 #2 阿修羅王


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#3へ続く
https://note.com/mizukiasuka/n/n3f1c93b7b3bd

アスタロト公爵 最初から
https://note.com/mizukiasuka/n/n86d65d981a73

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