元祖 巴の龍(ともえのりゅう)#6
「何か変だな」
大悟の家を出たとたん芹乃はつぶやいた。
芹乃は大悟と丈之介以外の人間には、ほとんど会ったことがない。
だが、たいていの場合、女が一人だけで男だけの家に泊まりたがるだろうか。どうにも納得がいかない。
「おっと」
考えながら歩いていて、芹乃は何かにつまずいて転んだ。
起き上りながら、自分の家が目の前であることに気づいた。
何に引っかかったのか。
足元を見て芹乃は悲鳴を上げた。
それは、血まみれの芹乃の祖父だった。
「げ・・・源じい・・・。だ・・・大悟、大悟!」
大悟は、悲鳴に続いて自分を呼ぶ声を聞いた。芹乃だ。丈之介も立ち上がった。
「大悟、おまえは菊葉殿を見ておれ。わたしが行く」
丈之介はかつて源じいに打ってもらった太刀を手に、芹乃の家に向かった。
家というより小屋という方がふさわしいその家に、火の手が見えた。
その燃える家の前で、芹乃が何かにとりすがって泣いている。
それはすでに事切れた源じいの無残な姿だった。
「芹乃、ここはあぶない」
丈之介が芹乃を遺体から引き離そうとすると、突然空から風狸(ふうり)が襲ってきた。
風狸は狸くらいの大きさで、昼はじっとうずくまっているが、夜になると鳥のように飛ぶ獣の妖怪だ。
風のように翔ける。速き事、飛鳥の如しという。
それが夜空を覆うほどに飛び回り、次々と丈之介に向かってきた。
丈之介は太刀を抜いて応戦するが、いかんせん数が多すぎる。
「芹乃、源じいは諦めろ、逃げるのだ」
芹乃には丈之介の声は耳に入っているのか、ただ泣きすがり動こうとしない。
丈之介は 思い切って芹乃に当て身をくらわせ、芹乃の体を担ぎ上げた。
片手で太刀をふるいながら、後ろを振り向くと自分の家も燃えていた。
一瞬、たった一人の息子・大悟のことが胸をよぎった。
しかし、武人としての勘が戻ってはいけないと告げていた。
丈之介は大悟の運に賭けた。そして芹乃を担いだまま、風狸の中を駆け抜けた。
続く
ありがとうございましたm(__)m
【「炎の巫女/阿修羅王」全国配本書店名はこちら
https://note.com/mizukiasuka/n/ne4fee4aa9556 】
そして、またどこかの時代で
次回 元祖 巴の龍#7はこちらから
https://note.com/mizukiasuka/n/naea5bec7d50e
前回 元祖 巴の龍#5はこちらから
https://note.com/mizukiasuka/n/n9b8d3602083d
元祖 巴の龍 を最初から、まとめて読めるマガジンは、こちらから
https://note.com/mizukiasuka/m/m19d725f12ae1
「巴の龍」(「元祖 巴の龍」の後に書きなおしたもの、一話のみ)は
マガジンこちらから
もしよろしければ、サポートしていただけると嬉しいです。いつも最後までお読みいただき、ありがとうございますm(__)m(*^_^*)