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元祖 巴の龍#45

「だめ、汗かいてるから離して」
芹乃がもがきながらそう言うと
「平気だ」
と兵衛が言って、さらに腕に力を込めてきた。


「いや、私、仕事の後はすごく汗臭いもの。自分でわかってるから。お願い離して」
「平気だ。平気だから、もう少しこうしていたい」

兵衛は芹乃を前に向き直させると、さらに抱きしめた。
「だめ、だめ」
芹乃は子供のように何度も同じ言葉を繰り返す。

「少し黙って。少しだけ静かにして」
芹乃はやっと抵抗をやめて、兵衛の胸に顔をうずめた。

生まれた時から葵と夫婦になると決まっていた兵衛と、同年代の男は大悟しか知らなかった芹乃の、遅い初恋だった


兵衛は自分の太刀の打ち直しが終わると、今度は洸綱の太刀を持ってきて、同じように打ち直しを頼んだ。兵衛は、またこれでここに来る口実ができると思った。

もう夏も盛りを過ぎようという頃、兵衛は芹乃に、休みが取れればゆっくり会えないか、と聞いた。
一日も休まず働いてきた芹乃だったが、兵衛に言われて、親方に初めての休みを申し出た。

弟子入りして半年、男並みのつらい修行に耐えてきた芹乃だった。
親方は芹乃の精進ぶりを認め、一日だけ休みをくれた。

その日芹乃は、丈之介に休みであることを告げず、仕事に出るふりをして家を出た。
また、兵衛も洸綱の太刀の様子を見に行くのと、少し買い物があるので遅くなるかもしれない、と言って家を出た。もう後ろめたさより、芹乃に会える喜びの方が大きかった。

二人は山間の草原に行って、日がな過ごした。何をするというわけでなく、他愛もない話をし、ときどき寝転がったり、追いかけっこをしたり、黙って座ったり、ただ二人でいるというだけで満足できた。

何を求めるでもなく、何を望むでもなく、こうして二人で過ごす時間だけが大切だった。まるでままごとのように、一日が過ぎて行った

夕方になり、いつも芹乃を送っていく時間になった。兵衛はいつものように同じ時間に芹乃と、芹乃の家に向かった。
途中まできて不意に兵衛が芹乃を抱きしめた。

離れたくない
芹乃は抱きしめられたまま
「また、明日も会える」
と言った。兵衛は首を振った。
このまま二人でどこかに行こう

続く
ありがとうございましたm(__)m

「駒草ーコマクサー」
弟が最後に見たかもしれない光景を見たいんですよ

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