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元祖 巴の龍#3(地図付き)

丈之介は昏々と眠り続ける菊葉を見ながら、今は亡き妻・桔梗を思い出していた。
大悟が幼い時、先のいくさのさ中に別れたきり未だ消息が知れない。
おそらく死んだのだろう。
大悟にもそう言い聞かせてきた。

だがこの娘、桔梗に生き写しではないか。
しかし、我らに娘はいない。
大悟には一つ上の兄がいるはずだが、それとて生きているのかさえわからない。身内は大悟ひとりと諦めてきた。
しかし、光の龍は・・・。

 「親父、黙り込んでどうしたのだ」
 大悟の声で我に帰ると、丈之介はふと微笑んだ。
「いや何、おまえの母親のことを思い出していたのだ。
まだ桔梗と夫婦でない頃。わたしは桔梗の従者で、桔梗は主人。
つまり姫様だったわけだ」  

またその話か、というように大悟はごろりと横になった。
父と母の出逢いについてはもう何十辺と聞かされてきた。
兄と大悟が生まれた後いくさが起こり、バラバラに逃げて今は離ればなれでいること。たぶん、母は生きていないことなど。

「いや、先のいくさの前に、もうひとついくさがあったのだ」
「だから、その最初のいくさの時二人で逃げて、隠れ里で夫婦になったのだろう。
そのいくさが無ければ、一生夫婦なぞになれず、俺も生まれていなかった。
だが、兄と俺の四人で暮らしているのを、涼原の叔父御に探し出され、再び出陣することとなった。
それが先のいくさだ。もう、そらで言えるわ」

 丈之介は首を振った。
 「ひとつ、話していないことがある。
桔梗が言っていたのだが、今まで気にしたことはなかったが・・・」



桔梗の兄・涼原洸綱の城は北燕山(ほくえんさん)を北に下った新城(しんじょう)という土地にあった。
豊かな平野が広がり、温情深い涼原一族は長くこの地を治め、民に代々名君と慕われてきた。

その新城に、南の果ての蛇骨(だこつ)から三つ口定継が攻めてきた。
定継は邪虚川(じゃっきょがわ)を越え、南燕山(なんえんさん)から朱欄(しゅらん)を掌握、西燕山を北上して安寧(あんねい)を手中に収めた。
そして安寧の北西に位置する新城にもその勢力を伸ばしてきた。

大悟の母・桔梗は姫というには度胸も太刀も男顔負けの腕前だった。
三つ口定継が攻めてきた時、兄・涼原洸綱丈之介とともに戦った。
しかし、いくさは涼原の惨敗だった。新城は三つ口定継の手に落ちたのだ。

桔梗は傷ついた丈之介を背負い、月の光に導かれるように北燕山に逃れた。途中追手に追いつかれそうになった時、桔梗にはもう手向かいする力もなく、丈之介を抱えたまま、ひたすら月に祈った。

その時、月が追手に向かって光り、三つ首の龍の姿となった。
光の龍は追手に向かって咆哮するように襲いかかると、彼らはちりぢりに吹っ飛んで消え去った。
さらに龍は光そのものとなり、桔梗と丈之介を包み込んだのだ

続く
ありがとうございましたm(__)m

地図(モデルは九州ですが、私の線が下手すぎる。2001年作成)

元祖 巴の龍#3


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そして、またどこかの時代で


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