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甲斐くんの憂鬱 #2

「お疲れ様です」

つい二ヶ月ほど前に入った年配の女性が挨拶してきた。

甲斐は反射的に頭を下げてすれ違った。

調子狂うな。

ただのおばさん。甲斐から見たらおばさんだ。

歳はわからないが、下手したら母親と同じくらいかもしれない。

このおばさんが必ず挨拶してくる。

いや、社内でも「挨拶しましょう」と上席からはお達しがあり、ロッカールームにも、廊下にも、挨拶についてはポスターが貼ってある。

アドバイザーである甲斐は、率先して挨拶しなければならない立場だ。

わかっている。

しかし、アドバイザーとはいえ甲斐も若者。

実は挨拶はめんどうだ。

若いオペレーターが挨拶もせず通り過ぎても、本来は気にしない。

かえって、ほっとする。今どき挨拶励行なんて、いつの時代だ。

百人もオペレーターがいても、昼休みも、二回の休憩もバラバラの時間だ。

皆、ひとりで休憩室で食事を摂る。知っている者と同じ時間は、ほとんどない。

お互い知らない者通しが、毎日違う席で、知らない者の隣で電話を取っている。

全く知らない者通しが、話もしたことが無い者通しが、何故挨拶などしなければならない。

年寄りの作った慣習は、今の時代とずれている気がする。

「甲斐くん、いいとこ来た」

また年上の女性アドバイザー、いいかげんに覚えろよ。

オペレーション室に入った途端に、あちらこちらから質問攻め。

これがスターで、若い女性にもてているならいざしらず、職場は年上の女性が多い。

オペレーターに至っては、ほぼ おばさんオンパレードだ。

あぁ、レッドカードが見える。電話中のレッドカードは最優先だ。

「このお客さん・・・」

さっきのおばさん、由沢さんだっけ。

挨拶おばさん。そういえば・・・。

たしか由沢が入ってまだ研修中だった時、ありえないほどのクレーム電話を受けた時があった。

たまにいるのだが、相手は「訴える」とか「死ね」とか「人間やめろ」とか、顔の見えない相手がズタズタになるようなことを言うクレーマーだった。

そのクレーマーを、新人で研修中のこのおばさん、由沢が引いたのだ。

ババ抜きのババ

甲斐くんの憂鬱#2

新作駒草ーコマクサー」
弟が最後に見たかもしれない光景を見たいんですよ

SIRIUSの小箱」ってなあに?
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甲斐くんの憂鬱#3へ続く
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甲斐くんの憂鬱#1はこちらから
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