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隠れ宿(ちょっと不条理#7)

が目覚めると ふとんに白い肌の女がいた。
酔っていたのか 記憶がさだかではない。
は あわてて服を着る。
女は 「待って」と 起き上った。

「まだ 何も。何も 無いのよ。」
は ほっとした。
「すまない。酔ったいきおいだ。私には 妻が・・・。」
は そこまで言うと そそくさと服を着て、女の家を出た。

思えば 不思議な話だ。
酔って 暗闇に飲み込まれたような記憶はある。

だが いつ どこで あの女と・・・。
・・・確か 暗闇に飲み込まれる時 会社の上司後輩に声をかけられた。彼らは どうしただろう


後輩は 女の白い肌に顔をうずめていた。

は 会社の先輩。最近 妻を失った。
しかし 休んで妻の送りを済ませた後も 会社を休んでいた。
今晩 たまたま上司と呑んでいて を見かけたのだ。
暗い霧の中に 飲み込まれるようにして消えていきそうなを 上司とともに追いかけた。

自らも かなり酔っていたと思う。
それが こんな幸運。
美しい女と ともに夜の闇に溶けて行こうとは。
後輩は 女の体に身を飲み込まれるように 沈んで行った。

彼が沈んだ先には 大きな赤く光る目が二つ。
毛むくじゃらな 8本の足がうごめいていた。


上司は たくさんの裸の女たちに囲まれていた。
そう、部下と呑んでいたら 暗闇の奥に消えてゆく を見つけたのだ。
妻を亡くしてから 会社に出てきていない。
を 部下と追いかけた。

その先にあった パラダイス。
酔ったいきおいも手伝い 女たちの群れに飛び込んだ。
あぁ でも なんて 熱いんだ。
女が たくさん 体中に まとわりついているからか。


「ねえ、かあさん。もう、ゆであがったの?」

「あぁ、もうすぐだよ。骨まで溶けるにはちょっと時間がかかるけど、もうスープは飲めるよ」

「かあさんは、いつもスープね。とうさんは、生で食べてしまうのに」

「だって、スープにすれば 長く楽しめるだろ。骨まで溶けたエキスがね」

母親は、大きな なべをかきまぜながら 娘を振り返った。

「それより おまえは良かったのかい?を逃がしてしまって」

娘は 小さな ため息をついた。

「だって あの。死んだ奥さんのところに 行きたがってたんだよ」

「だったら、行かせてやれば良かったじゃないか」

「行けないよ。ここじゃ」

「ふん。同じことだよ。死にたいやつは 死なせてやれば良かったんだよ」

娘は 母親の言葉に プイと 横を向いた。


暗闇の中に壊れかけた橋が見えた。
そうだ、この橋を渡ったんだ。この橋を渡る時に上司後輩に会ったんだ。
は夜霧にけむる暗闇を振り向こうとしたが 思い直して橋を渡った。
上司後輩のことは気になっていたが 実際自分もひどく酔っていて 本当に二人に会ったかは さだかではなかった。


は 橋を渡り終えると まだ灯りの残る街へ向かった。
その先には 妻のいない家がある。
ふと は 古事記の「イザナギ・イザナミの話」を思い出した。
死んだ妻を黄泉の国まで迎えに行き 振り向いてしまったため 腐りかけた死んだ妻に追いかけられる話だ。

は 決して振り向かなかった。
明日は 会社に出よう。いつもでも ひきこもっては いられない。
新しい人生を 生き直さなければ。
は 明るいネオン街に消えて行った。

橋の向こうの 夜霧にけむる暗闇が あとかたもなく消えたことを は知ることは無いだろう。


終わり


2011.1.23(日)この日の朝の夢です。

ありがとうございましたm(__)m

隠れ宿(ちょっと不条理#7)

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