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巴の龍(ともえのりゅう)#9

桔梗(ききょう)が答えると、洸綱(たけつな)

ひざまづき二人の子の手をとった。

小さな兄弟は身を硬くしてにらんだ。

「良い目をしておる。さすがは涼原(すずはら)

血筋だ。わしもな、娘が生まれた。

葵(あおい)といって、下の大悟(だいご)と同い年だ。

そうだ、わしの娘と どちらか めあわせよう」

「兄上、このような幼き者に おたわむれを」

洸綱は 立ち上がった。

「本来 丈之介の身分であれば、この縁組は

叶うまい。

だが、あの負けいくさの後とあっては仕方ない。

それより、おまえ達にもどって来てほしいのだ。」

そして、さらにたたみかけるように続けた。

新城(しんじょう)の国は、今 三つ口定継(みつくちさだつぐ)

手に落ちている。

だが、あの国は 我らが涼原が領地

女でありながら、男以上の度胸と太刀の腕を持つおまえだ。

まして、丈之介(じょうのすけ)は武勇誉れ高く 

実直で亡き父上も 目をかけていた者。

定継に いくさをしかけるために、

おまえ達の力がほしい」

逆らうすべなど なかった。

洸綱は桔梗のたった一人の兄であり、

丈之介にとっては 国をなくしても

主君であることは 変わりなかった。

ところが三つ口定継は、三年前以上に

力を強めていた。

寄せ集めの涼原の軍など 敵ではなかった。

戦場ではぐれた桔梗と丈之介は、

お互いの生死も知らず、逃げて行くよりほかなかった。

その時丈之介は、まだ一歳だった大悟を連れて

この北燕山(ほくえんさん)に逃げ込んだのだ。


あれから十四年、母・桔梗兄・兵衛、そして

洸綱親子の消息は ようとして知れない。

いや、残党狩りから見つからないよう

生きてゆくのが精一杯だった。


巴の龍#9

ありがとうございました(*´▽`*)


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かあさん、僕が帰らなくても何も無かったかのように生きていってね


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巴の龍#10へ続く
https://note.com/mizukiasuka/n/ne2689af10d7b

巴の龍#1 こちらから
https://note.com/mizukiasuka/n/n6785ce9c010e

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