見出し画像

元祖 巴の龍#20

兵衛は後ろ向きのまま
「いや、いずれ義父上からこの話が出ることを、覚悟していただけだ」
と言い、振り返る

どうしてもいやなら、断っても良いのだぞ
と続けた。
葵は兵衛に見つめられてまた赤くなった。

「い、いやだなどど言うてはおらんではないか。ただ驚いただけだ」
葵はぷいと横を向いた。

雪の少ないこの地方にも、うっすらと雪が降った日、兵衛と葵の祝言がひっそりと三人だけで行われた
「世が世なれば涼原の跡取りとして、盛大に祝ってもらえるものを」
洸綱は口惜しがったが、若い二人の門出には十分だと、兵衛も葵も感じていた。

その夜は二人の初めての夜であり、来良での最後の夜でもあった。

洸綱は二人が成人したのを機に再び新城奪還に動こうとしていた
まず涼原の生き残りを探し力を蓄えるために、来良を離れる決心をした。

それには、すでに三つ口の手に落ちている甘露を通り南下して粛清(しゅくせい)に向かうことに決めていた。
粛清も三つ口の支配下にあったが、蛇骨(だこつ)に近いわりには反乱分子が多いという情報があった。

その夜、兵衛は寝室でひとり葵を待っていた。しばらくして障子が開き、静かに葵が入って来た。そして兵衛に手をついた。

不束者ですが、末永くお引き立てくださいませ
葵は頭を下げた。

祝言が決まった日から、二人はまともに口をきいてなかった。
今まで兄妹として何でも言いあってきた。しかし、夫婦(めおと)となるという事実が若い二人を妙に意識させてしまっていた。

葵、ほんとうにこれで良かったのか。あれから話すこともなく、今日を迎えてしまって」
 葵はうつむいた。

幼き日より兄と思うたことは、一度もありませんでした。
いつかこうなることを望んでいたのは、私の方でございます。
ずっとお慕い申しておりました

兵衛は少し戸惑いの表情を見せた
しかし、黙って葵の方へ体をずらすと近づいてきた。そして、うつむく葵の頬に、そっと兵衛の指がふれた。

続く
ありがとうございましたm(__)m

【「炎の巫女/阿修羅王」全国配本書店名はこちら
https://note.com/mizukiasuka/n/ne4fee4aa9556 】
そして、またどこかの時代で

次回 元祖 巴の龍#21はこちらから
https://note.com/mizukiasuka/n/nda7bc8922e0c

前回 元祖 巴の龍#19はこちらから
https://note.com/mizukiasuka/n/n04b940fbc7ca


元祖 巴の龍 を最初から、まとめて読めるマガジンは、こちらからhttps://note.com/mizukiasuka/m/m19d725f12ae1

「巴の龍」(「元祖 巴の龍」の後に書きなおしたもの、一話のみ)はマガジンこちらから


もしよろしければ、サポートしていただけると嬉しいです。いつも最後までお読みいただき、ありがとうございますm(__)m(*^_^*)