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元祖 巴の龍#49

その狼は彼らの頭目のようで、右目を失って独眼だった。
菊之介は半分太刀を抜きかけたまま、狼から目をそらせなかった。

彼は菊之介に近づくと、くーんと鳴いて、菊之介の太刀を持つ手をなめ、さらに顔をぺろぺろと舐めた。
菊之介は狐につままれたように、しばらく動けなかった。

狼は尻尾を振り、何度も菊之介の顔を舐めてくる。
菊之介は少し落ち着いてくると、狼の顔を手で挟むようにした。
おまえ、だれなんだ。どうして、わたしを

独眼の狼に知り合いはいないはず。そう思いながらしげしげと狼の顔を見つめる。もとより覚えがあろうはずが
「おまえ、まさか!」

菊之介は一年以上前、怪我をした母狼と、子狼を助けたことを思い出した。
「おまえ、あの時の狼か、あの子供だった
 狼はくーんと鳴いた。

母は、母狼はどうしたのだ?
狼に人間の言葉がわかるのか、彼は悲しそうな目で下を向いた
「そうか……やはり、死んだのか

菊之介はしみじみと狼の体を見た。
眼だけではない。傷だらけだ。この独眼といい、ひとりになった彼が、この山で生き抜いてゆくのにどれほど大変であったのか、容易に想像できた。

菊之介は狼を撫でながら
「兄上もいるのだぞ。ほら、あの時うさぎや山鳥を獲ってきてくれた兄上だ会ってくれるであろう
と言って立ち上がった。

 
大悟は菊之介の帰りが遅いので不安にかられてきた
ロンの一件以来、太刀使いも磨きがかかり、武人らしい潔さも出てきた菊之介だった。

しかし、所詮は城育ち、いわゆるお姫様だったのだから、山育ちの大悟とは鍛え方が違う。
危機に対する処理能力も、菊之介にはまだまだ心配なところがあった。

大悟が思い余って探しに行こうとした時、少し離れたところから歩いてくる菊之介の姿を認めた。
しかもいっしょに来るのは狼ではないか。

大悟がどうするべきか迷っていると、
「兄上!」
と、菊之介が手を振った。
「兄上、この狼を覚えていますか?」
菊之介が指さしながら、狼と走って来た。

続く
ありがとうございましたm(__)m

「駒草ーコマクサー」
弟が最後に見たかもしれない光景を見たいんですよ


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