元祖 巴の龍#25
「この書き付けは三つ口の者が読むことがあっても誰のことかわからぬよう、涼原の名が入っておりませぬ。
しかし、もし葵殿がよそに嫁いだなら、婿殿の姓が書いてあっても良いのではないですか。
葵殿は女子です。他家に嫁げば、もう涼原の人間ではありません。
三つ口の伯父御の娘の嫁ぎ先までは探索しないのではないでしょうか」
だからどうだというのか、と大悟は思った。菊之介は息をはずませている。
「それを、兵衛、と名のみ書かれているのは、まさに涼原の血筋の証し。
年の頃からいっても、丈丸兄上が兵衛と名を変えて葵殿と祝言をあげた、と考えるのが筋ではないでしょうか。
おそらくこの地を離れる時、この書き付けを処分しわすれたかと」
大悟は突然巻物を取り上げられて不快に思っていたが、この弟の考えも確かに一理あると感じた。
「では、これからどうする」
「はい、伯父御はもうここにはいません。どこに行ったかもわかりません。ただ、生きていることだけは間違いないでしょう」
「だから?」
「ひとまずサライにもどりましょう」
「サライに?」
今度はロンも首を突っ込んだ。
「まだまだ、いろんなところ、行きたい」
「ロン、おまえの気持ちもわかるが、これからはますます厳しい旅路となろう。一度サライに帰って考えてみてはどうだ。
わたし達もこの先どうすべきか、早急に決めなければならぬ。
それにはまず、ロンをサライに送り届けねば」
菊之介に言われて、ロンはうな垂れながらしぶしぶ承知した。
「そうと決まれば長居は無用だ。明日にでも出発しよう」
大悟も賛成した。
来良の冬も終わりを告げようとしていた。
もうすぐ新芽の芽吹く春が、足音をたててやってくるのだ。
だが、足音をたててやって来るのは、何も春ばかりではなかった。
追手が菊之介たちを諦めたわけではなかった。
大悟は伯父・洸綱の書き付けを懐にしまった。
いつかまた、伯父に出逢える時があれば、この書き付けもまた、身内の証しとなるかもしれない。
翌日菊之介一行は来良を離れた。
続く
ありがとうございましたm(__)m
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そして、またどこかの時代で
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