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元祖 巴の龍(ともえのりゅう)#1

菊葉様、お逃げください!
 の声に急かされるように、菊葉は北燕山(ほくえんさん)の山道を登っていた。
樹林川(じゅりんがわ)を渡った時から追手が迫っていることを、菊葉も感じていた。
それが今現実のものとなって菊葉と楓を襲ってくる。

追手は大量の岸涯小僧(がんぎこぞう)の群れだ。
川べりを住処とする彼らは、菊葉がこの岸を通るのを待っていたのだるう。鱗に覆われた体に手足の水掻き、鋭い牙を持ち襲いかかってくる。

「菊葉様!」
 楓の絶叫にも似た声が響いて菊葉が振り返ると、岸崖小僧が団子になって楓を押し包んでいる。
「楓・・・」
 菊葉は再び山を登り始める。

 ――――逃げるのじゃ。どこまでも逃げるのじゃ。
 遠くで母の声が聞こえたような気がした。


「この楓は、私がこの城に囚われた時いっしょに捕まった者です。
元はくノ一ですから、そなたを助けてくれるでしょう」
 桔梗は楓に向きなおって
 「我が子・菊葉(きくは)を頼みます」
と、頭を下げた。楓(かえで)は驚いたように後ずさった。

「とんでもない。幼き頃より、桔梗(ききょう)様、丈之介(じょうのすけ)様とはよくごいっしょにさせていただきました。
私の最後のご奉公。この命に代えても菊葉様をお守りいたします」
 桔梗は安心したように頷くと、菊葉の手を取った。

 「この鍔(つば)は、そなたの父が私に作ってくれたもの
わずかに細工が施してある。
先のいくさで太刀も柄も鞘も無くなったが、この鍔だけは手放さなかった。
父もそなたの兄達も、生きているのか消息は知れないが、もし出会える時があれば、この鍔が我が子である証となるだろう」
 菊葉は鍔を受け取ると懐に仕舞った。
それから、躊躇いながら桔梗を上目遣いに見た。

「あの、母上。姉上に別れを告げるわけには・・・」
「何度も言うて聞かせたではないか。
桐紗(きりさ)は血のつながらぬ姉ぞ。そなたが生まれた時に、ちょうど母を亡くしたばかりであった。
それゆえ、三つ口定継(みつくちさだつぐ)が、私に養育するよう預けたのじゃ。
そなたとは分け隔てなく育ててきて、私も我が子同然に思っておる。
しかし、桐紗は定継の子。真実を告げるわけにはいかぬ」

 桔梗のきついもの言いに気をされて、菊葉は黙った。
桔梗は菊葉の手を、おのれの両の手で握り締め、真っすぐ見つめた。
「逃げるのじゃ。どこまででも逃げるのじゃ」

続く
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元祖 巴の龍#1


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そして、またどこかの時代で

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