マガジンのカバー画像

短編小説、物語いろいろ

93
「巴の龍(ともえのりゅう)」「love's nigt」「ある独白(我が永遠の鉄腕アトムに捧ぐ)」「カオル」「甲斐くんの憂鬱」続々増えるよ
運営しているクリエイター

#3分で1個心のブロック

巴の龍 #1(地図付き)

そぼ降る雨が少女の体を容赦なく濡らしていた。 北燕山(ほくえんさん)の奥深く、 人も通わぬ 獣道で、少女は泥にまみれ 着物をひきずるようにして歩いていた。 杉木立が生い茂り、遠く近く 獣の鳴く声が響いてくる。 少女は足を止めず、ひたすら歩く。 よく見ると着物は ところどころ破け 長い髪も雨に濡れて 顔にべたりとはりつき そして その顔を見た者は  誰もが生気のなさに驚くだろう。 雷鳴がとどろいても 少女は足を止めない。 少女の視線が稲光をとらえた。 「

ある独白♯1

葛城(かつらぎ)博士邸が取り壊される。 敷地等買い取られた財産すべて、 しかるべき福祉施設等に寄付される。 その情報が耳に 入った時 私はまよわず 葛城邸に向かっていた。 葛城邸は人家より少しそれた山の入口に ひっそりと建っていた。 昔の洋館を思わせる作りで、 大きな門は開いていたが、 広い庭は ついこの間まで 手入れされていた様子が 読みとれた。 私は門から玄関までの数分の道筋 まだ家主が生きているか不安になった。 明日は取り壊し予定日。 家主は

ある独白#3

「ジャーナリスト? 女性の方がこんな山奥まで・・・。 いったい このわたしに  何のご用なのですか?」 「・・・お話を聞かせてほしいのです」 「話・・・ですか?」 「あなたは葛城博士が六十年ほど前、 最初に作られた RP7(アールピーセブン)型ロボットですね?」 彼はうなずいた。 「はい、そうです。 わたしはRP7型ロボット・ リュージ」 「あなたが作られてから、この六十年の間に あなたに起こったことを 話してほしいのです。 私は それを書きたい

ある独白#5

今から約六十年ほど前、葛城博士はこの研究所を兼ねた屋敷の中で 一体のロボットを完成させた。 それこそがRP7型ロボット第一号・リュージだ。 リュージは二十歳前後の青年の姿をした、 完璧な人型ロボットだった。 博士は、彼に葛城竜次という人間の名前を与え、 自分の息子としての最低限の知識を与えると、 ロボットであることを隠して、 大学に入学させた。 リュージが人の中でロボットと気づかれず生活できるか、 という実験だった。 葛城博士には当時大学を卒業したばかり

ある独白#7

リュージは、ロボットとして耀子の部屋の前に立っていた。 管理人に葛城竜次、耀子の弟としての写真入り身分証明書を見せると、 こころよく部屋の鍵を渡してくれた。 リュージが大学を卒業するまで人としての時間を過ごしたが、 葛城博士がRP7型ロボットであることを発表したことによって、 ただの使役ロボットになっていた。 耀子の部屋のドアを開けると、 中のカーテンは閉めきってあった。 リュージはまっすぐにカーテン向かい開け放つと あらゆる窓を開けた。 部屋の中はしばらく帰ってない様子で

ある独白#9

「ちょっと!私の持ち帰りの研究資料はどうしたの? 勝手に片づけて、捨てたんじゃないでしょうね」 「書斎にまとめておきました。」 書斎? 耀子は奥の部屋をのぞいた。 そこにはバラバラに あらゆる場所に散乱していたはずものが きれいにまとめられ、分類まで耀子の考えどおり並んでいた。 「先にお風呂はいかがですか?おつかれでしょう?」 リュージに言われるまま、久しぶりに湯につかった。 入るとすぐに洗濯機の回る音が聞こえた。 そういえば、山ほどあった洗濯物が消えてい