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コミュニティの成長のために必要なこと。

きのう、人工生命研究会に参加してきました。

研究会が立ち上がったのは2021年4月のことです。今日はその5回目の研究会。ALIFEというまだまだニッチな学問分野。世界には国際人工生命学会(International Society for Artificial Life)という団体があり、国際学会も毎年開かれます。けれど、日本には定期的に開かれる研究会がなく「もっとALIFEについて議論したい」という個人的な思いから、賛同者と共に立ち上げたのがそのはじまりです。

目指したのは、日本にもALIFEのコミュニティをつくること。

そして、今日の研究会で、「ああ、なんだかいい雰囲気だな」「やっとコミュニティになってきたな」と感じられたのです。

意気込みよろしく研究会を立ち上げたものの、最初の数回は発起人らによる発表がほとんど。コミュニティと呼ぶにはほど遠かった。コミュニティとなるには、コアなメンバーがいることはもちろん、新しいメンバーが入ってこないと成立しません。そしてもっと大切なことは、その新しいメンバーが新たなメンバーを連れてくること。この連鎖が起こってこそ、コミュニティとなっていきます。

最初の数回の研究会は、コアメンバーがいるだけという状態でした。ときどき新しいメンバーが参加してくれるけれど、一回で途切れてしまう。ましてや、新しいメンバーを連れてきてくれることもない。

けれど、今回の研究会はその連鎖が起こったのです。たとえば、以前に基調講演をお願いした研究者の人たちが、新たなテーマで発表に申し込んでくれたり、雨の中わざわざ現地まで足を運んで聞きにきてくれたり。他にも、これまでにも参加してくれていた研究室から新たなメンバーが発表してくれたり。共著者をみると、以前に発表してくれた人の名前も入っています。

コミュニティがどう成長しているかをテーマに、SNSデータを分析したり、モデルをつくって研究している私にとっても「モデルのとおりだな」と、肌感覚で確かめられた瞬間でもありました。

コミュニティの成長は次の三つの要素で語ることができます。

要素1:既に知っている人とのつながりをどのくらい強めるか。
要素2:新しい人とどれくらいつながるか。
要素3:新しい人がどれくらい新たな人を連れてくるか。

この三つの要素のバリエーションでさまざまなソーシャルネットワークが成長する様子を捉えることができます。

「1」の要素しかなかったのが、初期の人工生命研究会です。運営メンバーであるコアメンバーが発表してる状態。加えて、基調講演を通じて新しい人をコミュニティに呼び込んではいたので、「2」の要素も少しはありました。

でも「3」の要素がないので、コアメンバーが毎回新しい人を呼び込まない限り、「2」も起こらないという状態です。そして、第5回目にしてはじめて、2で呼び込んだ人が新たな人を連れてくる、という「3」の状態が起こったのです。コミュニティとしてはじめて「成長」を経験した瞬間でもありました。もちろんまだまだ小さな一歩で、まだまだ小さなコミュニティだけれども、コミュニティづくりに向けてその一歩を踏み出すことができたな、と思えました。

では、なぜ2と3が起こったのか。

大きな理由には、数年前まで学生だったひとがポスドクになったり、研究室を持つようになったことかなかなと思っています。ポスドクになると、学生の面倒もみるようになりますし、研究室を運営するようになるとなおさら一緒に研究をする学生が増えます。

私もそうですが、ひとつの研究室の中だけで議論していると煮詰まりがちです。他の研究者からのフィードバックが欲しくなります。そこで研究会の出番となるわけです。年3回、コンスタントに開催している研究会が発表の場、意見交換の場として活用されるようになってきたのではないか。

これまで学生だった人が、指導教員のもとを離れ自立していく。自分の学生を育てていく。つまり、ALIFE的にいうと研究ユニットの自己複製が起こっているのです。もちろんそこには突然変異が加わっているので、研究の多様性も生まれています(研究分野に長く携わっていると、その樹形図がイメージできるようになるのも楽しいことのひとつだったりします)。
自己複製の連鎖が研究会にも反映されている。単なる仮説ですが、悪くない線だと思います。

もちろん、私が最近書いたALIFEの入門書『ALIFE | 人工生命 ―より生命的なAIへ』でこの分野は面白い!と思ってくれた人によって裾のが広がっていることも一因かもしれません(笑。

ちなみに、コミュニティの成長についての研究から、新しい人とのつながりを強める要素(要素1)と、新しい人が入ってくる要素(要素2&要素3)の割合が2:8ぐらいのときが、コミュニティとしてちょうどよい塩梅だという報告がなされています。新しく入ってきた人が他の人と知り合いになりやすく、またコミュニティに戻ってくる割合が高いのです。

コミュニティ運営に研究の知見が役立つというのは、嬉しいことです。こうした知見は、もちろんいろんなコミュニティを分析するときにも役立ちます。自分のコミュニティがどのように成長しているのか、何を変えると安定したコミュニティになるのか。そういったことに悩んでいる方がいたらご連絡ください。お役に立てるかもしれません。

ということで、人工生命研究会の運営の立場から最近の研究会について感じたことを書きました。自己複製したり、相互作用したり、成長したり。コミュニティって実に生命的だなと改めて感じている今日このごろです。

昨日の研究会で発表してくれたみなさん、参加してくれたみなさん、そしてもちろん研究会の運営準備に携わてくれたコアメンバーのみなさん。雨の中、ありがとうございました。ciao, alla prossima!

p.s., 詳しいモデルや分析の説明は次のnoteに書いてありますので興味のある方はぜひ読んでみてください。



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