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「聴くチカラ」に学ぶ質問力

質問ってどうやって考えたらいいのですか?

大学で教えている「人工生命概論」では、毎回の講義への質問をレポートで提出してもらって次の講義で回答しています。「分からない部分がクリアになってよかった」「他の人の質問をみると、全く異なる視点から理解できて勉強になる」となかなか好評な講義スタイルです。

でも、受講生の中には「質問がなかなか思いつかない」「特に質問はない」という方もチラホラいます。

どう答えるのがいいのか。そんなことを考えていたら『LISTEN』を監訳した篠田真貴子さんの「聴くチカラ」の中で、質問するチカラにも通じることをお話されていました。

それは「仮説を持って聴く」ということ。

大学教員という職業は授業をしているイメージがおそらく一般的で、話すことが多いと思うかもしれません。でも本当は、話を聴く、そして質問することがずっと多い職業です。毎週のゼミでの学生さんの発表、個別の打ち合わせでもまずは話を聴くことからはじまります。そして質問する。

話を聴いているとき意識的にしていることが、この話はどんな流れなのかなということです。次の話の展開を予測しながら聴いています。そうすると、「あれっ、私の思っていた話の展開と違うな」「わたしはこの結果からそういう風には思わないけれど、なんでこの学生さんはこういう結論を導き出したのだろう」といったことが必ずあります。予測とのズレが生まれるのです。

このズレが質問の種になります。特に研究に関する打ち合わせの場合は、どちらが正しいとか間違っているといった正解はありません。なので、ズレを認識することで「なんでこう思ったのだろう」と相手の立場になって想像を巡らせることができるのです。すると、学生さんの趣味嗜好というか、研究の持っていきたい方向性もみえてきます。

「仮説を持って聴く」ことで話手と自分のズレの認識が生まれ、それが質問にもつながります。

とはいっても、自分の全く知らない分野についても仮説を持って聴くことは、決して簡単なことではないと思います。

わたしが担当している「人工生命概論」という授業も多くの学生にとっては一度も聞いたことのない話です。「人工生命」についてはじめて学んだ人が、そもそもどんな仮説を持てばいいの?とツッコミが聞こえてきそうです。

たしかにそうです。でも、どんな話であれ仮説を持つことはできるとわたしは思っています。

たとえば、人工生命概論では「人工生命と人工知能は同じような分野だと思っていた」という感想をたくさんもらいます。この感想で感じているズレは「同じ分野だと思っていた」ことですよね。何がそのズレが生んでいるのか、それがそのまま質問になります。「人工生命と人工知能って同じような分野だと思っていたけれど、何がその違いを生んでいるのですか」。あるいは、もう少し掘り下げて「違う分野でも、両方ともコンピュータを使っているし、同じところはあるのではないですか」など。

人工生命について理解しようとするときに、人工知能との関連から考えようとするように、仮説を持とうとするとき、わたしたちは自分の知っている知識を探って、関係していそうな考えを持ってくるのです。わたしはこれを「隣接可能空間の探索」と呼んでいます。

隣接可能空間とは、近くにあるけれどまだアクセスしていない知識や情報の空間のことを指します。他者の話を聴きながら仮説を持つことが、まだアクセスしていない情報空間へと通じる道を切り開いてくれるイメージです。

そう考えると、他者の話を聞きながら仮説を考えることは自分についての理解を深めることにもつながるのではないかと思います。これまで辿った隣接可能空間を振り返ると、自身の趣味嗜好が軌跡として残されているからです。

仮説を持って聴く。それは自分の可能性を広げながら、自身についても深く知る行為だ。そう考えると、聴くことがこれまでよりも楽しくなりそうです。

今日も最後まで読んでいただきありがとうございました。
ciao! 

p.s., 隣接可能空間については次のnoteで詳しく説明しています。興味のある方はぜひこちらも読んでみてください。






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